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三島浩司「ルナOrphan’s trouble」

三島浩司「ルナOrphans’ trouble」。(徳間書店)。かつて徳間書店が開催していた日本SF新人賞の第4回受賞作。北マリアナ諸島西100kmに隕石が落下した。その後、海面異常の現象が発生し、未確認海面物質は沖ノ鳥島方面に移動。海洋研究所から東大に移った馳功二から、その調査同行を求められたルーテック工業の有働洋海。妻の南美と中学生になった息子の仁を残して、海中探索ロボット「EXFV」を乗せて、新研究船「白鷹丸」で洋上に出航した。沖ノ鳥島深海で、採取した未確認生命体。しかしその反動に、有働洋海をはじめとした数人の犠牲を伴った。ここまでが「有事前」。
 物語はいきなり「有事後」に暗転する。沖ノ鳥島から姿を消した未確認生命体は、屋久島、九十九里沖と移動する。そして関東地区に「デヴィルレイズ」と呼ばれる大惨事を引き起こす。それは電離性放射線で、400万人を被害者とする悪性ウィルスの被害を生む。しかも罹病者は体調不良だけでなく、肉親拒絶という精神状態に陥る。海外諸国は、日本のパンデミックを恐れて、事実上の鎖国。首都東京は経済的にも壊滅して休都、京都に遷都して、滋賀県栗東に行政府と立法府が移転して首都となる。政府は国家緊急事態を、国家非常事態宣言に引き上げ、戦時中のような国家総動員体制を敷く。未確認生命体を発見した馳功二は、災害対策特命機関の総括主任に任じられる。馳功二の妹である馳ツバメ30歳、父を喪った有働仁14歳、家族と隔絶した天間瑠奈17歳は、闇市となった大阪で、自らをリセットして生き抜いている。日本の壊滅を防ぐために「エロス計画」「タナトス計画」に打って出た馳功二。彼の作戦と、闇市で生きる3人の若者の生き様が、生死を賭けてクロスする。
 この物語の描いた世界は、今の世界的なコロナ禍と状況を同じくする。ウィルスによるパンデミック。そこから生物的にも、経済的にも破綻する世界。親子すら、親子だからこそ、縁を切る疫病。満ち足りた飽食社会は一変する。そこは第二次世界大戦直後の日本と同様である。恵まれた境遇から転落する子供たち。もはや親に頼らずに、自らの力で生き抜いてゆくしかない。年端もゆかぬ者たちが助け合って、生き延びること。それが一縷の希望となる。それはパンデミックが産んだ、日本の蘇生かもしれない。著者である三島浩司は、われわれを囲む世界が瞬時に一変する可能性を示唆している。今から20年前に、三島浩司は未来を予言していたのだ。その預言が、生物として衰退している人類への諫言であったはずだ。
https://www.amazon.co.jp/dp/B08H1ZTRN8/


東大、特命機関、総括主任
北マリアナ諸島西100kg、隕石、未確認海面物質、コロイド、ウィルス、空気感染、悪環、悪塊、デヴィルレイズ、電離性放射線、400万人、肉親拒絶
沖ノ鳥島、屋久島、九十九里
馳ツバメ、島谷、金座マーケット、エクスぺクス、30歳
海中探索ロボット EXFV
海洋研究所 新研究船「白鷹丸」
那須鉄心
天間瑠奈、17歳
有事前
有事後
国家緊急事態、国家非常事態宣言、国家総動員体制、
鎖国、遷都、京都、首府、滋賀県栗東、行政府、立法府が移転、東京、休都
エロス計画、
タナトス計画

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