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中町信「悲痛の殺意」

中町信「悲痛な殺意」(徳間書店)。新潟県・奥只見温泉郷の大湯ホテルは。スキーと温泉を楽しむ客で賑わっていた。そこに、運命の糸にみちびかれたような邂逅があった。牛久保夫婦と秘密を共有する千明多美子、画家の沼田秀堂と彼の愛人の夫・佐倉恒之助、鯰江彦夫と上司の妻・柏原一江、警察官の七里正輝一家など多彩かつ因縁めいた出会いがあった。そして、事件が起きた。スキーバスが川に転落し、五人の死者が出たが、多美子は絞殺されていたのだ。この事件を契機に、次々と起こる連鎖殺人。
 『あれ、あれ、何か変だな?』と思い始めたのは、全416頁のうち、残り40〜50頁にさしかかったあたりからだった。この作品は、各章が犯人と思しき登場人物の妻の日記で始まる。その日記を書いたのが、本当は誰であるのかが、このミステリーにおけるドンデン返しの仕掛けである。そしてこの作品のもう一つの特徴が、警察から見た捜査と、最有力容疑者である牛久保初男の聴き込みが両輪となった構成である。死んだ多美子と数多くの因縁があった牛久保は、事件の所轄である小出署の伊達警部や坂見刑事から目をつけられる。自らの不利を知った牛久保は、真犯人を自ら探す。いったいどちらの調べが本当なのか。双方の捜査に振り回されながら惑う読者は、エンディングの仕込みに、著者にしてやられたことを思い知るのである。ミステリー小説とは、作家が如何に読者を煙に巻くかと心得たり。
https://www.tokuma.jp/book/b533963.html

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