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坂本康宏「稲妻6」

徳間SFコレクション電子復刻第15弾。坂本康宏「稲妻6」。第三回日本SF新人賞に「歩兵型戦闘車両OO」で佳作入選した第二作。
https://www.amazon.co.jp/dp/B08K3RGZ1M/
 愛媛県では奇怪な事件が連続していた。それは様々な獣人の登場。折しも「蟷螂5」なる、両腕が偃月刀のように凶器となった怪女が、愛媛県民を次々と襲って食べる惨事。実は木下彩実・24歳が自動車事故に遭ったショックで変化した姿だった。愛媛県警は警察庁から箒萌(ほうききざし)の対策応援を受け入れる。協力者は国立衛生研究所の寄生虫学者で解剖を愛する美女・那木奈緒子。
 橘直人・30歳は連帯保証人の借金で、年収の10倍の負債を背負う。町金融からの取り立てに絶望して、ビルから飛び降り自殺を図る。しかし気がついた時には、彼は稲妻の閃光と共に「稲妻6」に変身し、鬼の顔と数本の角と棘だらけの真っ黒な身体を持つ怪人となった。「蟷螂5」が幼い少女を襲う瞬間に居合わせた「稲妻6」は「蟷螂5」から少女を救う。これを契機に「稲妻6」は、愛媛県警から正義の味方として頼りにされる。その後、続々と出現する怪人。那木奈緒子は怪人発生の原因を寄生虫病によるものだと診断。かつて愛媛県越智郡上島町梓町で新型インフルエンザが流行した。怪人の出身地は、いずれも越智郡上島町梓町だったのだ。
 今の日本で三大病と言えば、癌、心臓病、脳卒中である。しかし日本のように衛生環境が整っているとは限らない全世界から見れば、エイズ、結核、マラリアが三大病で、その一角を寄生虫が占めている。マラリア以外にも、フィラリア症や住血吸虫症など寄生虫による病はアフリカなど熱帯・亜熱帯で猛威をふるっている。しかし一方で先進諸国は清潔な環境によって寄生虫を駆逐したが、その反動で抗体を失い、アレルギー症状をその身に招き入れた。SF小説は世界の危機を預言する。新約聖書マタイ伝15章11節「外から人に入るもので人を汚すことをできるものはなにもなく、人のなかからでてくるものが人を汚す」の引用は、科学技術の駆使によって安全地帯に逃げ込んだかに見える人間たちへの、痛烈な警告である。そして危機的事態に至った人類が最後に立ち帰る位置はどこなのか。エンディングはそれが何かを説く。

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