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永瀬隼介「ノーマンズランド」

12月の電子復刻は永瀬隼介のミステリー。先ずは「ロストクライム」として映画化された徳間文庫「ノーマンズランド」(上・下)。
「ノーマンズランド」(上)↓
https://www.amazon.co.jp/dp/B08NX4KP4P/
「ノーマンズランド」(下)↓
https://www.amazon.co.jp/dp/B08NX4398Q/
 地方都市・清河市の上北中学校に在籍した少年期を持ち、東京からUターンして市役所で秘書室長として働く泉敏郎・43歳。臨時職員上がりの叩き上げ市長である鬼塚隆三・58歳の下で働く。そして昭和55年卒の清河市立上北中学校の同級生8人が、故郷の街で数奇な再会を果たすことになる。それぞれに複雑な過去を持って現在に至る。その中で野次純平は裏上北と呼ばれる過疎地の奥の、満州帰還開拓団が住んでいた鎌苅で自給自足の生活を送り「原人」と呼ばれる。いつもウルフドッグのタロウを従えている。津島珠代は清河市の繁華街で、娘の寛子と小料理屋を営んでいる。八幡貢、宮尾次郎、片瀬義政はヤクザの道を歩んでいた。そして美貌と知性に秀でた篠田邦生は、城東大学の犯罪心理学教授として名を馳せていた。
 敏郎は純平から、無人の荒野となった裏上北でウルフプロジェクトを展開できないかという相談を受ける。野生の狼を放し飼いにする環境保護事業だ。しかし民間刑務所誘致で街を活性化しようとしていた鬼塚市長の方針と、敏郎は間に挟まって苦悩する。剛腕市長は貢、次郎、義政の三悪に、純平の脅迫を依頼。ウルフプロジェクトを支援する篠田邦夫は、廃墟となった上北中学の校舎で、市長を含めた話し合いを提案。上北中学の同級生たちに加えて、ウルフプロジェクトを支援する鵜飼志津子、地元国立大学の浅倉教授、純平と親しい無職の青年・益田良太、寛子も参加。篠田邦夫の狙いは、裏上北が隔絶された人跡未踏の地であることだった。そこで起こる凄絶な事件と、鎌苅の地で明かされる数々の秘密。そして8人目の同級生である須藤千種との再会を果たす。
 清河市という架空の土地にまつわる、同級生とその家族のおぞましい過去。そして社会が彼らへ無慈悲に与えた過酷な運命。その秘密を暴きながら、積年の恨みと情念を晴らさんとする同級生たちの相剋。人という動物は、かくも罪深い存在であるかと天を仰ぎたくなる。その一方で、ウルフドッグ「タロウ」とチラリと出現する野生のニホンオオカミたちの毅然たる姿。そして裏上北とその背後を守る屏風山脈の、大地と自然の美しさ。その描写は息を飲むほどに鮮やかで、争いを繰り返す人間たちの醜さを見事に洗い流してくれる。

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