西村健「ヤマの疾風」
西村健「ヤマの疾風」(徳間文庫)を電子復刻。電子書籍版はこちら↓
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炭鉱が日本の主力エネルギーから斜陽産業へと傾き始めた頃。北九州から三池炭鉱に至る筑豊炭鉱一帯は、ヤクザや任侠道・極道たちの仕切る縄張りでもあった。神戸から進出を目論む明石組。それを迎え撃つ海衆会と、迎え入れようとする桂組。
主人公の飛車松こと菱谷松次は、友人たちと海衆会内々の賭場に「ハグリ」(殴り込んで金品を奪う)をかける。まだ二十歳そこそこの若僧たちに賭場を荒らされたら、ヤクザとしては放ってはおけない。しかし何故か飛車松は、襲われた親分にも、地域の侠客にも気に入られてしまう。結局のところ、仕置きに向かった若頭も飛車松に惚れ込んでしまう。つるんだ友人の彼女が攫われて、桂組に乗り込む飛車松。これをきっかけに、海衆会と桂会は全面戦争に突入する。
無法松の一生のような極道青春ドラマである。そこには素朴な友情が満ち溢れ、男一匹ガキ大将としてのビルディングロマンスがある。その底には、筑豊地帯の川筋気質が一本流れている。これも古き良きニッポンである。「女にはわからん男の世界がある」と男たちが気勢を上げ、しっかり者の女たちが男たちを尻に敷く。時代が動いている時の男と女の役割はハッキリしていた。
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