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大山淳子「通夜女(つやめ)」

大山淳子「通夜女(つやめ)」(徳間文庫)を読了。電子書籍版はこちら↓

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 採用面接で自信をなくし、深く傷ついた小夜子。それ以来、就職しはぐれて、ずっと自宅に引きこもり。24歳の若さで夢も希望もなくし、ようやく見つけた趣味が通夜通い。しめやかな場の不幸の空気に身を浸すことが慰めとなり、見ず知らずの葬儀の末席に顔を出す。最初は香典を出して、焼香したら帰っていた。そのうちに会場係の案内でお清めの席に導かれる。その席で、いつも顔を合わせる老婆がいた。彼女も通夜通いの第三者「通夜女」だった。

通夜女に弟子入りして、その作法を教わりながら、小夜子は様々な死に出会い、予期せぬ知己を得て、自らの特技も思い出す。ある日突然に通夜女に葬儀会場で罵倒され、通夜通いは卒業。その後、死に物狂いで生きた小夜子は、遂に出口を見つける。その時になって小夜子は、引きこもっていた頃に、通夜女や母親に自分が見守られていたことを知る。未来のある有望な若者が、そのプライドを打ち砕かれ、冷笑を浮かべながら、自らを見下している。そんなクールダウンした行間が、いつの間にか通夜女たちの手で血が通っている。小夜子と共に世を儚む気分が、地味だが救われた喜びに癒されてゆく。脚本の世界でも活躍していた著者の小説家開花の会心の一作。


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