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梶尾真治「たゆたいエマノン」

梶尾真治「たゆたいエマノン」(徳間文庫)。「エマノン」シリーズ第6弾。クセのないサラサラとした長い髪。荒編みのセーターに、細いジーンズ。涼しげな眼差しと、彫りの深い異国風の顔立ちの若い女性。彼女は地球が発生してから、現代までの13億年に渡ることを、全て記憶している。彼女は子孫の中で、一つの人格のまま、生まれ変わってゆく。本作では、時をジャンプする少女ヒカリと、エマノンの長い友情を描く。「たゆたい」とは「揺蕩う」つまりユラユラ定まらないことを指す。 壮大な時間軸の中で、地球規模のファンタジーが語られる。その展開には詳細な生物進化論や、濃密な歴史証言など、高い見識の教養に深められている。そして何より美しいエマノンそのものに、われわれ男性は惹きつけられる。各章の扉には、鶴田謙二氏による、エマノンの挿絵が入る。このイラストが、読者を美しい歳上女性への憧憬に誘う。巻頭にはカラー口絵も2頁付き。
https://www.tokuma.jp/book/b508612.html
 本作は五つの小編で構成される。
①たゆたいライトニング
・地球の誕生から行動を共にしていたエマノンとヒカリ。「創世記」で「はじめに光あれ」と神が宣した時に、ヒカリはエマノンのもとに飛び込んできた。その後のあらゆる地殻変動や生態系の進化の中で、二人は助け合い、慈しみあってゆく。
②ともなりブリザード
・日本最北端の黒宇島の医師・深見健人と結婚するために、島に渡った早稲美波。船で一緒になったエマノンは、少年時代の健人の初恋の人だった。森で凍死しそうになったエマノンと、美波は右腕の震えが共鳴し始める。
③ひとひらスブニール
・ヒカリが息を引き取った九州山奥の樫木村で育った少年・俊吾は大人であるエマノンに恋をする。しかしエマノンは時空を旅立ってしまう。二人の再会の約束は、20年後であった。しかしそこに現れた女性は、エマノンではなかった。
④さよならモイーズ
・アフリカで毒虫に噛まれたエマノンを救ってくれたコモナ・ムアンザ。彼女はツォボ州立大学霊長類研究所で、民族紛争で逃げ出した欧米の製薬会社の実験動物を守っていた。爆撃で瀕死の彼女と再会したエマノンは、彼女から最期の頼みを受ける。
⑤けやけしドリームタイム
・久屋裕介は美しい女性の夢を見る。しかし同じクラスで4人も同じ夢を見ていた。彼女の絵を描いた浦野の漫研部室に、エマノンは現れた。そこにいた超常現象研究会の祝川女史はヒカリであった。後に俊介は2人から、未来の秘密を教わる。

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