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明野照葉「誰?」

明野照葉「誰?」(徳間文庫)。武藤晴美・38歳は、恋人である寺嶋浩人と親友である倉橋恵利に、こっぴどく見捨てられる。スピリチュアル系ライターという肩書きは、尊崇するスピリチュアリストである望月マコからインスパイアされたもの。沢田隆・71歳は、晴美と近所の居酒屋で知り合う。彼を父親のように慕う晴美は、やがて隆への思慕を打ち明け、結ばれる。妻を亡くした隆にとって、晴美は心の憩いであった。小林瑞枝・59歳は、子供2人が巣立って、世話する相手がいなくなり、手持ち無沙汰の毎日だった。そこに現れた工藤留美。道端で苦しんでいたところを助けて以来、不幸せな境遇の彼女を母のように世話してきた。友野直也・33歳は、零細出版社に勤める、彼女ナシ。喫茶店でのトラブルで知り合ったペンネーム吉井順子というライターと知り合う。食事に行っても、いつも支払ってくれる歳上の女性。やがて二人は深い関係に発展する。やがて三人が知る驚天動地の真実。
 誰にしも孤独の影はある。それは豊かであっても、そうでなくても、必ずある。歳を取れば取るほど、その陰影は色濃くなる。孤独を背負えば、人は誰かに愛されたいし、誰かを愛したい。ところがエデンの園で知恵の実を食べてしまった人類は、嘘という宿業を習得してしまった。それが犬や猫や小鳥であれば裏切らない。しかし人間は違う。明野照葉は、求め求められ、騙し騙される、人という存在の哀れさをスリリングに描き切っている。嘘という病を、科学的にも、メンタルにも病理解剖した、調査の裏付けも見事。エンディングのエピローグには、開いた口が塞がらない。さすがは、オール読物推理小説新人賞、松本清張賞も受賞された実績ある作家。https://www.tokuma.jp/book/b525020.html

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