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帰ってきた帽子

久しぶりに帽子を落とした。いつも被っているのはベレー帽。幼稚園児のように紐が付いているわけではないので、よく落っことした。以前は営業女子が後ろから「落としましたよ」と拾ってくれたが、今はもういない。通常だったら『あー、落としちゃったか』と諦めたと思う。しかしこの帽子は愛すべきガールフレンドたちがお金を出し合ってプレゼントしてくれた物だった。
 東京メトロ南北線の電車で落としたのだと思って、西ヶ原駅員に相談した。すると電車の到着駅に片っ端から電話をかけてくれた。厄介な乗客のために、一生懸命に親身になってくれた。自分だったら、こんな面倒くさい客にここまで尽くすだろうか。年頃は鉄道員である息子と同じくらいだ。結局は見つからなかった。終着駅まで追ってくれたが、やはり出て来なかった。しかし帰宅後に彼から電話があった。電車の中ではなく、西ヶ原駅のホームで落としていた。翌朝取りに行った。勤勉な鉄道員さんのお陰で、失わずに済んだ。同級生で鉄道員となった友人は言う。「鉄道における最大のサービスは安全である」と。たしかに命あっての物種である。しかしこういう無償無心の奉仕も鉄道業における最高のサービスと言えるのではないだろうか。後日にお礼の品を送らせて頂いた。もちろん直ぐに恐縮したお礼の電話を頂いた。

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