「トクマの特選!」かんべむさし「公共考査機構」
かんべむさし「公共考査機構」(徳間文庫)。10月から始まった「トクマの特選!」シリーズの一冊である。このシリーズは過去に刊行されていた徳間書店の文芸作品を徳間文庫で復刻する。その際に新たなブックデザインやイラストで装丁し、解説も新規で併録する、某社員の提案で実現した企画である。電子書籍版はこちら↓
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極東ハウジングの中堅社員・日高は、ある日、自分が罠にはまったと気づいた。公共放送協会の番組『あなたの意見わたしの意見』への出演依頼を受けたからだ。番組は、電波を通じての私刑を大衆の名のもとに行なう、人民裁判の場だった。その背後には、財政官界の強力な後押しで設立された「公共考査機構」の存在があった。
西洋の魔女狩りで行われた異端尋問裁判が現代でもあったら、という読んでいて鬱々としてくる物語。執筆された時期が1985年であるため、生活習慣や科学技術の水準が現在とはギャップがある。ニューメディア時代の世論操作というテーマであるが、昨今に照らし合わせてみればSNSによる情報管理ということになろうか。この作品が心を寒からしめるのは、番組出演によって、職場や家族からスポイルされるという、現実にありがちな人生の葛藤。そんな社会矛盾を利用する輩も頻出する。密告でライバルを消し去る同僚、通報で小遣い稼ぎに余念のない常習者、お金を出せば出演辞退の便宜を図るコンサルタント、頂上には憲法改正を狙う与党政治家。目的を誤った手段が、社会と個人を破滅に導く黙示録が目の前に展開される。この作品が日本という国の予言の書にならないことを祈るばかりだ。