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梶尾真治「ダブルトーン」

梶尾真治「ダブルトーン」(徳間文庫)を読んで『やっぱり、梶尾真治作品はいいなあ』と堪能。かつてサカイノビーさんがイラストを描いた「穂足のチカラ」(新潮文庫)などを読んで魅了されていた。
 2人のユミ、主婦である田村裕美と、広告会社のOLである中野由巳。2人の間には共有される記憶がある。日々平凡で安定した日常を送る裕美。変化のある毎日を忙しく過ごす由巳。朝目覚めると、どちらのユミかが自身に表出する。最初はぼんやりとした感覚であったのだが、お互いに共有するその意識がだんだんと気になってくる。やがて双方の知人が、2人のユミの間に現れるようになる。やがて2人のユミは、思いもよらぬ未来を知り、動揺する。エンディングは衝撃。自分には予想もつかなかった。
 ありふれた日常が少しずつ変容してゆく兆し。人智を超えた不思議な兆候。それが無意識に生きていた、2人の女性の生き方を変えてゆく。生温い日常が、未来を知ることで必死に変わる。人は明日起こることを知らない。だから著者が言う「人は、失ってから初めて、失ったものの価値を知ることがある」に、ドキッとさせられる。大切なものを守るために目覚めよ。そして未来は変えることができる、それが著者の一番伝えたかったことかもしれない。

http://www.tokuma.jp/bookinfo/9784198945336

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