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東圭一「奥州狼狩奉行始末」、狼は賢く美しい🐺

 東圭一「奥州狼狩奉行始末」(角川春樹事務所)。第15回角川春樹小説賞受賞作。電子書籍版はこちら↓
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江戸時代、馬産が盛んな地域にとって、狼害は由々しき問題だった。そのため、奥州には狼を狩る役=狼狩奉行が存在した。狼狩奉行に就くよう藩から申
し渡された、岩泉亮介。父が三年前に非業の死を遂げ、家督を継いだ兄も病で臥せっている。家のため、命を受けた亮介だったが、今、狼の群れは「黒絞り」という見たこともない大きな頭目に率いられ、かつてないほどの狼害を引き起こしていた。だが「黒絞り」を追う内に、父の死の真相、藩の不正問題にまで繋がり……。狼狩を通じて描かれる、自然と人。時代小説に新風を吹き込む静謐な世界。(ここまで公式解説)。
古幡さんが推奨していたので読んでみた。動物が出てくる小説というのは良いものだ。樋口明雄「南アルプス山岳救助隊K-9」シリーズを、仕事でずっと読んでいたが、女性隊員と救助犬ペアの存在はいつも心強くかつ心温まる存在だった。本作品は狼退治という自然と人間の対決と共生のドラマ。そしてもう一つ、狼害を利用した犯罪ミステリーの切り口がある。奥州では馬産が盛んで、狼たちは人でなく馬を襲う。主人公である岩泉亮介が「狼狩奉行」を拝命して事態の打開に当たる。多くの猟師が「黒絞り」に恐れを為し、尻込みしている。難事と言いつつ、岩泉亮介一人に任せっ放しで、有効な手は何一つ打てない藩政。しかし岩泉亮介は、身内をはじめとして、信頼できる仲間を得て、新たな「黒絞り」包囲網を敷く。その一方で「狼狩奉行」であった父を亡き者にした、奴らの所業の全貌も掴み始める。何も用意されていない環境から、尊卑を顧みず頭を下げて、ひたすら足で稼いだ成果である。物語が進むにつれて「黒絞り」が、いかに知能が高く、情の深い獣であることがわかる。読み終えた頃には、私の心には「黒絞り」への畏敬の念が育っていた。北海道や東北地方の熊害については、そんな甘いことは言っていられないのが現実だろう。しかしニッポンオオカミが誇り高く賢い動物であることは、確かなことのようのだ。

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