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パキスタンビザを取ろうとしたら大使館で面接を受けることになった

2022年の秋ごろだっただろうか。いつも通り何となくTwitterのタイムラインを眺めていると、興味深い動画ツイートが流れてきた。
何でも、インド-パキスタン国境で行われているフラッグセレモニーの様子らしい。

インドとパキスタンといえば、カシミール紛争で知られる通り激しく対立していることで有名だ。そんな両国の国境のうち、一ヶ所だけ人々が自由に往来できる場所がある。それがこのワーガ国境なのである。

ワーガでは毎日国境を閉める際に、上の動画のような、ド派手な威嚇合戦を催している。両国とも観客席をこしらえ、国民や観光客を招き入れて互いに国威を見せつけ合っているのだ。
このセレモニーの様子は、筆者の興味を強く惹き付けた。こういったライブパフォーマンスものは、やはり現地で熱気や音圧を感じてこそだと思うのだ。

ちょうどGWに友人たちとドバイに行く計画を立てていたため、そのついでにインド・パキスタンにも行ってみることにした。善は急げとばかりに早速調べてみたところ、印パ両側からセレモニーを観覧し、なおかつアムリトサル(インド)とラホール(パキスタン)観光もできるツアーがいくつか見つかった。今回はあまり日程に余裕もなく、特にパキスタンについては最新の日本語情報がほとんどなかったため、万全を期すべく西遊インディアのアムリトサル・ラホールツアーに申し込むことにした。

大まかな日程としては下記の通りだ。

1日目
デリーからアムリトサルまで空路で移動。
1日中アムリトサルを観光した後、夕方頃にフラッグセレモニーをインド側から観覧。
アムリトサル泊

2日目
午前中に国境を越え、午後からラホール観光。
夕方頃に国境に戻り、フラッグセレモニーをパキスタン側から観覧。
ラホール泊

3日目
終日ラホール観光。
夜の便で帰国。

ルートが決まったら次は準備だ。

日本国籍を持つ者はインド、パキスタンともに入国にあたってビザが必要になる。
インドについてはアライバルビザでも問題ないようだが(短期滞在の場合)、空港で死ぬほど待たされるとの噂もあったので、事前にe-visaを申請していくことにした。
インドビザの方は、詐欺サイトを潜り抜けたり、大量の質問をさばいたりしながらも何とか申請し、すぐに発給してもらうことができた。

問題はパキスタンビザだった。
パキスタンは2021年2月より、全てのビザ申請をオンライン化した。面倒な郵送手続きはしなくてよくなったのだ。しかしながら、申請時に添える書類の条件には少々トリッキーなものもある。
例えば…

宿泊ホテルの予約確認書が必要(友人等の家に泊まる場合は紹介状)
・顔写真はメガネを外したものにする(反射していなければセーフかもしれないが、筆者は弾かれた)

などだ。
このあたりはビザ申請サイト上の指示に従っていればクリアできる。また、西遊旅行のサイトにも詳細な申請方法が掲載されている。

顔写真を3回ぐらい撮りなおしたり、アップロードする書類のファイルサイズが大きすぎたりと手間はかかったものの、こちらも何とか申請にこぎ着けた。あとは発給されるのを待つだけだった。
しかしながら、メールボックスに返ってきたパキスタンビザチームからのメッセージはこうだった。

SUBJECT: DOCUMENTS REQUIRED
More documents are required to consider your visa application.

どうやら必要書類が足りていなかったようだ。しかしながら、申請サイト上に記載があった必要書類は、顔写真、パスポートの写真ページのコピー、ホテルの予約確認書の3種のみ。
念のためファイルサイズを再調整してもう一度申請したが、やはり同じ回答が返ってきた。
また、備考欄にはこう書かれていた。

applicant may seek appointment at embassy for an interview

どうやら大使館まで面接を受けに来いとのこと。筆者は英語が全くできないので、面接だけはどうしても避けたいところだ。困り果てた筆者は、藁をもすがる思いで西遊旅行の担当者Aさんに連絡してみた。
すると、衝撃の情報を得た。
どうやら、2023年の2月ごろから審査官が変わり、ビザの審査が厳しくなったというのだ。

確かに、Twitter上でも2022年内まではパキスタンビザを取るのに面接が必要だった、という人は皆無なのに対して、2月ごろから筆者と同様のメッセージが送られてきたとのツイートが散見された。一国のビザ申請が担当官の一存で左右されるのもどうかとは思うが、とにかくビザをもらえなければこの計画は破綻である。何とかならないものかと思っていところ、Aさんから提案があった。在日パキスタン大使館に連絡を取ってくれるというのだ。
これは英語弱者の筆者にとっては非常にありがたい申し出だった。同時に送られてきた英文の旅程表を添えてオンラインで再提出しつつ、Aさんからの連絡を待った。
しかしながら、Aさんからもたらされたのは次の言葉だった。

「査証の現状の状況としては、やはり大使館での面接が必要とのことでした」

…もはや交渉の余地はない。とはいえ、ここまで来て諦められるはずもない。筆者は、Aさんを通して面接の約束を取り付けた。
面接は午後に行われる予定だったが、当日の午前中、指定の時間にその日面接に行く旨を電話で連絡してくれとのことだった。いわゆるリコンファームだ。
このリコンファームは10:30から11:00の間にしてくれと指示があったものの、実際に電話が繋がったのは11:00過ぎだった。しかも通話自体は1分で終わった。
…既に不安だがとりあえずリコンファームは達成した。筆者は英文旅程表を携え、南麻布のパキスタン大使館に向かった。

パキスタン大使館前で壁面装飾の工事をしている人たちにおそるおそる話しかけると、その中の一人が敷地内に案内してくれた。受付で氏名とパスポート番号を告げ、館内に入る。1分ほど座って待っていると受付の人が筆者を呼びに来た。いよいよ面接だ。

出迎えてくれた担当官と握手を交わし、本題に入っていく。前述の通り、筆者は英語が全くできないので、以下のやり取りは推測である。

ビザ担当官(以下ビザ)「(旅程表を見ながら)これによると君は午前11時に国境を越えてパキスタンに入るようだが、審査に1時間程度かかったとして入国は正午過ぎになるはずだ。それからどうするんだ」
筆者「ラホール市街の観光を予定している」
ビザ「国境からラホール市街までは1時間ぐらいかかるぞ。移動手段は確保しているのか」
筆者「旅行会社で車を手配してもらっている」
ビザ「この旅程表によると君は国境でフラッグセレモニーを見学することになっているが、このセレモニーは夕方開始だ。正午に国境を越えてからセレモニー開始まで3~4時間あるが、その間何をするつもりだ」
筆者「一度ラホール市街地に出て観光し、その後もう一度国境に戻ってきてセレモニーを見学する。見学後ラホール市街に戻りホテルにチェックインする」

どうやら担当官は、
①国境からラホールまでの足
②越境からセレモニーまでの間の予定

を確認したかったようだ。じゃあメールでよくないか。
この他にもいくつか質問があったが、「何日間パキスタンにいるのか」、「インドではどこに行くのか」、「(デリーとアムリトサルだと伝えると)デリーではどこに行くのか」、「職業はなにか」、「日本のどこから出発するのか」といった、一般的なものだった。

最後に担当官が「君の方でもう一度ビザ申請サイトにアクセスし、再提出しておいてくれ」と告げ、握手を交わして面接終了となった。
そして再申請から3日後、ようやくパキスタンビザが発給された。

以上が事の顛末である。2022年には大洪水で壊滅的な被害を受け、最近ではデフォルト寸前ともささやかれているパキスタンだが、素晴らしい史跡、自然に恵まれた魅力ある国であることは確かだ。そんなパキスタンへの渡航を考えている人にとって、この記事が何かの役に立てば幸いである。


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