ちいさな命

炊きたての米。鮮やかな着色料で、赤みを増した明太子。
それらを前に箸と手を合わせて、僕らはごめんなさいをする。「いただきます」と空間に沁みる声で呟いて。

何百もの米粒と、何千もの魚卵。数えきれないちいさな命。
それは決して善行の数ではなく、生きる事の上に微かに、確実に積み上がる罪でしかない。
それを食い千切り、咀嚼し、舌で転がし、嚥下する。
「鑑賞」されることも無くなった作品のように、感慨もなく呑まれていく死体の山。
もう死んでいるのだ、死体を加工され、都合よくパッキングされた命。
死んでいるなら喰われにゃ損などと考える事もない、唯一の救いは無知であった、意味のない合掌。

知能を持ちながら消費に慣れきった僕ら。些細な反逆心は日常に忙殺され、空の青さや滅びの画を妄想して逃げ延びる。

僕らよりおおきな命は、罪の概念を持つだろうか。

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