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井上洋介の俳句

二月三日は井上洋介さんの命日だ。直接面識があったわけではないのだが、恩師の種村季弘先生と交流があったので(『晴浴雨浴日記』は装本・装画を担当しており共作に近い趣がある)、勝手に親近感をおぼえている。

昨年、ギャラリーまぁるで開催された井上洋介展へ行ったとき、ご息女の真樹さんから興味深い話をきいた。井上さんが晩年、某有名青年漫画誌に持ち込みをしていたという話と、朝日俳壇に投句していて金子兜太に何度か選ばれていたという話である。

前者も気になることではあるが、後者のほうがすぐ調べがつきそうだったので早速図書館へ行った。面倒でも朝日新聞の縮刷版を順番に見ていくしかないと思っていたが、もしかしたらと検索してみると朝日俳壇は年鑑が刊行されていた。ありがたい。

俳号は三七。誕生日の三月七日にちなむという。ひとまず二〇一二年の分まで調べたところ四句が見つかった。いずれも金子兜太選。

天井のねずみ麦笛ききにでよ
(2015年5月25日)

天井に住みつくねずみを友人のように思っているのだろうか。ほほえましい。巖谷小波「小鼠の私語す夜寒の梯子段」を連想した。

蜃気楼窓辺少女のつけまつ毛
(2015年5月4日)

この週の一句目に選ばれている。金子の選評「少女の付け睫毛を想像することによって、更に幻想的」。カメラがクローズアップしていくような効果が出ている。

寒の鉄橋ずしりと黒く記憶消え
(2015年2月8日)

電車を題材にした作品の多い井上さんだから、電車の走る鉄橋も気になったのだろうか。記憶は戦争に関わることか。検索してみると、井上さんの住んでいた市川市と東京を結ぶ京成電鉄の江戸川橋の鉄橋は、もともと鉄道連隊が架けたものらしい(現在のものとは別のようだ)。

蜘蛛の囲に頭搦まれ失えり
(2012年7月16日)

失ったものはなにか。なかなか怖い句だ。

2007年にはトムズボックスから『井上洋介句集 大階段』を出しているので、もう少し前までさかのぼってみたいがひとまずここまで。句集は三月書房に在庫があったので早速注文した。こちらも楽しみである。

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