「経済戦争」の敗者はだれ?
ロシアのウクライナ侵攻の行方が見えない……とは、私は、一度も考えたことがない。結果は、はじまったときから、私には「見えている」。というか、それ以外のことを想像したことがない。
どうなるか。
ロシアは「負ける」。
理由は簡単。
ロシアがウクライナに侵略した。侵略者は必ず負ける。日本は中国や韓国に侵略し、負けた。アメリカはベトナムに侵略し、負けた。イラクに侵略し、負けた。アフガニスタンに侵略し、負けた。(アメリカはベトナム、イラク、アフガニスタンに「侵略」したわけではない、という人がいるかもしれないが、それはどちらの側から戦争を見るか、「定義」するかの問題。ベトナム、イラク、アフガニスタンから見れば、アメリカ軍が、わざわざアメリカからやって来たのは「侵略」以外のなにものでもないだろう。)
古くは、ローマ帝国の領土拡大、ナポレオンのロシア侵略、イスラムのイベリア半島侵略。
自分の住んでいる土地を離れて戦えば、必ず、負けるのである。みんな土地を知らないから負けたのだ。象徴的なのが、イスラムのイベリア半島侵略。イスラムは長い間、スペインを征服し続けたが、北部は支配できていない。スペイン北部は、雨が多く、緑が多い。それは砂漠とは、土地(気候)がまったく違う。イスラム教徒は、その土地、気候を知らなかったからだ。
とくに、アメリカは、自分の住んでいる土地を離れて、「異国」で戦争している。そういう人間は勝てるはずがない。
こういうことは、私はベトナム戦争から学んだ。
その土地に住んでいる人が、その土地を捨てることをあきらめない限り、よそからきた人間が勝つことはできない。その土地にはその土地を利用した生き方があるからだ。その土地の利用の仕方を知っている人間が生き残る。つまり、勝つ。
私の知っている例外、侵略者が勝利をおさめ、居すわり続けているのは、スペインのアメリカ大陸侵略くらい。戦うときの武器に差がありすぎた(武器文明に差がありすぎた)のと、侵略された側への「武器の補給(支援)」が他の国からなかったので、負けた。ベトナムにしろ、アフガンにしろ、他の国が武器支援をしている。単独で戦っているように見えて、単独で戦っているわけではない。武器支援のないところで戦わなければならなかったことが、アメリカ大陸が侵略されてしまった理由だ。
そして、このアメリカ大陸侵略には、もうひとつ注目しないといけない点がある。あれは、スペインというよりもキリスト教のアメリカ大陸侵略だったのだ。ほかにもいろいろ目的があるが、宗教を広める、「未開の人間を文明に目覚めさせる」という目標があった。そして、それが「成功」した。武力侵略、経済侵略が、そのまま「宗教侵略」として定着した。
アメリカは、このあたりの「事情」を勘違いしている。「理念(宗教)」を掲げて戦ったから勝ったと思っているのではないのか。歴史のことを何も知らない私の見る限り、宗教(理念)による侵略の成功(?)が、今のアメリカに引き継がれている。アメリカは「資本主義=自由」という、「宗教」に似た理念で世界で戦争を繰り広げている。「理念」を掲げさえすれば、勝てると思っている。けれど、やっぱり負けた。「自由主義/資本主義」の理念を掲げて戦っているが、やっぱり負けた。アメリカ大陸に存在したいくつもの国に「武器支援」がなかったけれど、ベトナムにもアフガンにも、他国からの「武器支援」はあったからね。一方、ベトナムに侵略したアメリカへは、そういう直接的な武器支援はなかった。アメリカは「自前」で武器を調達し続けた。まあ、アメリカの武器が最先端であり、他国の武器支援など役に立たないという事情もあるかもしれない。
いま、アメリカがやっているのは、この戦法だね。自分は戦争に参加しない。「武器支援」でウクライナを支援する。ここでおもしろいのは、アメリカが直接戦争しようが、間接的に戦争しようが(武器支援しようが)、そのときもうかるのはアメリカの軍需産業ということだね。
脱線した。
ロシアに、もし「勝つ」要素があるとしたら、アメリカの他国への侵略と違って、ロシアがウクライナと「地続き」ということ。「武器支援」の補給路が、どこにでもつくれるということ。ゲリラ攻撃ができるのだ。だからこそ、ロシアがウクライナから撤退したとしても、それは「負け」を意味しないかもしれない。油断させる作戦かもしれない。それにねえ、なんといっても、ロシアもまた、ウクライナの土地を知っている。同じ風土を生きているひとが多い。
ということは。
この戦争は「ベトナム戦争」以上に泥沼化することになる。
問題は、これに「金(経済)」が絡んでくることだなあ。(先に「脱線した」と書いたが、実は、これから書くことを書くための準備として、あえて横道に逸れておいたのだ。だから、これから書くことこそが、私のいいたいこと。)ベトナムは、世界経済に占める位置が低い(低かった)。簡単に言いなおせば、ベトナムから何かが輸入できなくなって困る国というのはあったかもしれないが、少なかった。
けれど、今度は違う。
ロシアから石油、天然ガス、小麦を輸入している国は多い。それらが輸入できなくなれば、輸入に頼っていた国の経済は、とたんに狂い始める。それは、あっという間に世界中に拡大していく。コロナウィルスの感染拡大よりも早い。そして、めんどうくさいことに、この拡大(たとえば物価の上昇)というのは直接的に人間を死に至らしめるわけではないから、とてもみえにくい。逆に言えば、その物価上昇で儲けているひとの、もうけもみえにくい。資本家は、何よりも「戦争」を利用して「便乗値上げ(利益の確保)」ができる。「ロシアの戦争のせいで、原料が値上がりしているから、仕方ないんですよ」。
で、ちょっと思い出すのだが。私は直接テレビを見ていたわけではないので勘違いかもしれないが、NHKが原料費の高騰と商品の値上がりについてグラフで解説していた。(音を聞いただけ。)なんでも、原料の高騰幅に商品の高騰幅が追いついていない(一致しない)、というような説明だった。テキトウに言いなおすと、原料の石油・天然ガス、小麦が10%値上がりしているのに、商品の値上げは10パーセントではない。企業は原料の値上がり分を転嫁できずに困っている、というのがNHKの説明である。
この説明、どうしたっておかしい。
ある製品が原料だけでできているなら、原料が値上がりしたら商品も同じだけ値上げしないと原料が値上がりした分だけ赤字になる。けれど、どんな商品(製品)も原料だけてできているわけではなく、製造にたずさわる人間がいる。労働力も原料にあわせて値上げする(賃上げする)なら商品は原料の値上がりに正比例して値上がりするが、労働者の賃金を据え置いたままなら、商品は原料の値上がりに正比例しない。石油が10%値上がりしたら、バス代が10%値上がりする、電気代が10%値上がりするわけではない。石油が10%値上がりしたけれど、電気代は5%の値上げ。電力会社は赤字を覚悟で消費者のために働いている、とは言えないのだ。「生産過程」のコストをあえて除外して、原料の値上げと商品の値上げが正比例していない、なんて、なんのための説明なのか。企業の便乗値上げを追認するための、子供だましの説明ではないか。
ここからわかること。
ロシアのウクライナ侵攻に歩調をあわせて、金儲け主義(アメリカ資本主義)が、巧妙に動いているということである。キリスト教が大勝利をおさめたアメリカ大陸侵略も、単に「理念(宗教)」の侵略ではなく、経済の侵略だった。アメリカ大陸には、ヨーロッパの金儲けに役立つものがたくさんあった。それを搾取した、ということを忘れてはならない。
経済的搾取を、ひとはどう呼ぶか知らないが、それはやはり「戦争」なのだ。「武力の戦争」と同時に、「経済戦争」が、いつでも起きている。そして「経済戦争」はいつでも「搾取」という一方的な形で展開される。資本家が必ず「勝つ」。「搾取」と戦い、耐え抜き、それに勝つため(反撃するため)の「土地/気候(風土)」のようなものを、私たちはまだ手にしていない。「搾取」に対する「ゲリラ戦」の基盤は、消費者独自の経済網だが、これはほとんど不可能だろう。もうひとつの基盤は「思想(ことば)」である。どんなことば(理論)で資本家の「搾取」、それに加担することばの嘘を暴いていくか、そういうことをめざさないといけないのだが、ジャーナリズムに横行している「学者」のことばを読むと、彼らは自分の地位に安住するために、ただ資本家(アメリカ資本主義)のことばを補強することに専念しているように思える。
ロシアはウクライナから撤退する。ロシアは、この戦争に負ける。そのとき、私たちを動かしている「経済」は、どういう形をとっているか。搾取の構造はどうなっているか。私たち市民は、この戦争で「勝った」と言えるのか。勝ったと喜ぶのは、資本家だけではないのか。
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