スマホデータ(読売新聞の読み方)

 2023年08月01日の読売新聞夕刊(西部版、4版)に、ぞっとする記事が載っている。(記事はweb から引用。https://www.yomiuri.co.jp/medical/20230801-OYT1T50134/)

スマホに日々記録の歩数や血圧データ、生活習慣病治療に活用…経産省が指標作りへ

 スマートフォンのアプリに日々記録する個人の健康データ「パーソナルヘルスレコード(PHR)」を、生活習慣病などの治療に役立てるための指標作りに、経済産業省が乗り出す。今年度から3年間の実証事業だ。診療に使えるデータの項目、収集・表示方法の基準を設けることで、PHRの医療現場での活用を推進したい考えだ。

 これは、単に「医療への活用」ですむのか。
 「診療につかえるデータ」の例として、読売新聞は「運動=歩数、歩行距離、消費カロリー」「食事=摂取カロリー、栄養素、食材」「体の状態=血圧、血糖値、体重」をあげているが、たとえば食事について、個人がわざわざ料理は何、素材は何、何グラムと記録などしないだろう。アプリをつかって、何を食べたか、その一般的な素材、栄養素、カロリーはどれくらいかを収集することになる。そのうち、いつ、どこで食べたかという情報まで収集されるようになるだろう。そうした情報収集は、あっという間に他の分野まで広がっていくだろう。つまり、支払いがスマホをつかっておこなわれた場合、その決済はどこでおこなわれているか、さらに利用金融機関はどこか、預金残高はいくらか……もちろん、そういう情報を除外するための工夫はおこなわれるだろうが、それがほんとうに除外されているかどうかは、スマホの利用者はわからないだろう。「情報収集をしていない」という表示するようにシステムを作っておけばいいだけである。
 そういう恐ろしさを感じると同時に、私は、この記事からもうひとつの恐ろしさを感じた。
 私が引用したのは、いわゆる前文だが、ここには「経済産業省が乗り出す」と政府が(経済産業省が)発表した」とは書いていない。読売新聞の「調べ」で「わかった」独材(いわゆる特ダネ)なのかもわからない。情報源がしめされないまま、「事実」として書かれている。
 記事を読むと、こう書いてある。

 日常生活の中で体重や歩数をスマホや腕時計型端末に記録するPHRが近年注目されている。血糖値や血圧は時間帯や行動によって変動するため、きめ細かな記録があると治療や生活習慣の改善に役立つとされる。一部の医療機関では、患者のPHRのデータを、医師がパソコンなどで確認し、診療に活用するケースが出始めている。患者がアプリの利用契約時などに診療への活用にも同意する。

 これは、いわば現場の医師が患者に対して「もしPHRにデータがあるなら、それを提供してもらえるか。診察、診療の参考になる」と呼びかけて実施しているものだろう。つまり、それは医師と患者の「個人契約」。問診のとき「きのう何を食べた?」とか「きのう激しい運動をした?」と聞くのとかわらない。しかし、それはあくまで「個人契約」。これを「データ」として管理するのは、別問題。
 記事をさらに読み進むと、こんなことが書いてある。

 ただ、現状では、アプリごとに収集・提供するデータが異なることもあり、PHRを診療に活用する医療機関はまだ少数だ。例えば、食事でも、A社のアプリは摂取カロリーを示すのに、B社はビタミン、たんぱく質などの栄養素を表示するといった違いがあり、医師からは「データの標準化や統一的な基準が必要」「データの信頼度を担保する仕組みがほしい」との声があがっていた。

 うーん、まるで医療現場が要求しているから、その声にあわせてスマホのデータの規格を統一し、それを活用をしようとしているように見える。これは逆に言えば、医師にそういわせることで、スマホデータ管理を国が管轄しようということにも見える。
 同時に別の問題も見える。
 この記事は、

医師からは「データの標準化や統一的な基準が必要」「データの信頼度を担保する仕組みがほしい」との声があがっていた。

 と書いているが、もちろん、その医師の「名前」はない。「内科医」とかの科目も書いてなければ、「都内の」とか「福岡県の」というような「場所」も書いていない。
 前文と同じように「情報源」が不明である。
 これでは、ある意味で、「捏造」ではないか、という疑問が浮かぶ。
 たとえば、何かの催しの観客の声でさえ、新聞では「〇〇市の小学1年生(7歳)」などのように「情報源」の一部を明示する。「年齢」はちゃんと取材しましたという「証拠」なのである。
 この「作文」は何を意味するのか。「記事の内容」以上に、不気味なものを私は感じる。末尾には、こう書いてある。

 経産省は、まずは、国内の患者数が数千万人規模に及ぶ生活習慣病の分野で、有用なデータの収集・提示方法の指標を作り、PHRを活用する医療機関を増やしていきたいとしている。さらに、高齢化の進展に伴い需要が増していく在宅医療などの分野でも活用促進を図る。政府が進める医療のデジタル化の一環で、医療の質の向上だけでなく、ヘルスケア産業の発展につなげたい考えだ。

 主語は「経産省」。しかし、経産省の誰がそう言ったのか、それは書いていない。これでは、経産省の誰かではなく、内閣の誰かが「経産省は、こう考えているよ」と言ったのかもしれない。「情報源」を隠すことで、「方針」を既定事実にしようとしているのかもしれない。その方針に、この記事を書いた読売新聞の記者は、何の疑問も持たずに加担していることになる。あるいは、この記者は、岸田や経産省にかわって、スマホデータの一元管理を推進する方法を提案して、得意顔をしているのかもしれない。

 新聞記事を読むときは、「情報源」に目を配ろう。「情報源」が書かれていても、片棒担ぎの記事があるが、「情報源」を明示しない記事は、いったい何が狙いで書かれているのか、注意しないといけない。

マスコミ批判、政権批判を中心に書いています。これからも読みたいと思った方はサポートをお願いします。活動費につかわせていただきます。