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音楽遍歴のようなもの。 #5 「TM NETWORK」①

中学一年の三学期。

私は相変わらず大好きな音楽をエアチェックし、せっせとお気に入りの曲ばかりを集めたカセットテープを聴きながら鼻歌、時に家族のいないときは一人で熱唱しながら毎日を楽しんでいた。

そして「GB」の隅から隅までを繰り返し読みながら、このアーティストが今度私の住んでいるところに来るんだな、とか、新譜の情報を見てはどんな曲なんだろう、とか、実際にライブに行ったり気になるレコードを直ぐに買えるという状況ではなかった13歳の私は読んで想像することで楽しむしかなかったけれど、それはそれで案外悪いものでもなかったように思う。

確か2月のことだった。

いつものように「GB」を熟読していると、あるページで一旦捲る指を止めることが多くなった。

そのページというのはEPICソニーレーベルのアーティストのみのリリースを掲載した白黒の見開き2ページに渡る宣伝だった。

記憶が朧気だが右ページの下段右端に気になるアルバムジャケットがあったのだ。

それはどちらかと言えばビジュアル系な、かといって実はそうでもないような、男性の三人の端正な横顔が斜め三段に並んだ、私にとってはとても印象的な「美しい」と思ったデザインのジャケットだった。

彼等は「TM NETWORK」と表記してあった。

「Self Control」という新しいアルバムが2月26日に発売されるという。

どんなアルバムなのか数行に渡り小さな文字で記してあったと思うのだが、とにかくそのページに差し掛かる度にその小さな白黒ジャケット写真に見入っていたが、聴いてみたいとか買いたいという気持ちまでは盛り上がらなかった。

何故ならその時まだ私は久保田利伸のファンだったからだ。


3月になった。

久保田利伸の楽曲で私が最も好きだとお話した「GODDESS〜新しい女神〜」が2月26日に発売され、耳に心地良い彼の歌声に聞き惚れていた。

私の日常は変わらずにいた。

「GB」の4月号も買った。

気になるあの広告がまた載っている。
しかもその号はそのリリースの特集が組まれていて、白黒でしか見たことのなかったジャケットが蒼味を帯びた美しさで鮮やかに目に焼き付く。

好奇心から背中をつつかれていたことにまだあまり実感がなかったけれど、どんな曲が収録されているのだろう、聴いてみたいという心境にまでは辿り着いていた。


私の通う中学校の裏門から出てほど近くに2月に開店していた小さな貸しレコード屋があった。

行きたいと思っていたのだがなかなか行き出さず、漸く友人と入店したのは3月に入ってすぐのこと。

今でこそレンタルは「CD」だが、当時はまだレコードが幅を利かせていて、棚には邦楽と洋楽に別れ、あいうえお順にレコードがぎっしりと収まっている。

新譜ばかりを揃えた棚はジャケットがよく見えるよう、展覧会の絵画のように綺麗な間隔で並べられていた。

あっ、と声が出そうになりながら目を奪われたのはまさしくあのジャケット。

TM NETWORK、「Self Control」

アルバムのジャケットは30cm四方。
先述したように正に絵画のような趣がある。

雑誌の小さな写真で見るよりも何倍も美しく迫力があり、その際立った存在感のあるデザインと色調に心を奪われた。

何度も何度も「GB」で見ていたにもかかわらず、私はその場で「Self Control」のジャケットに一目惚れをしてしまったのだ。

「ジャケ買い」という言葉がある。

私の場合は「ジャケ借り」になるのだが、はじめてそれを体験することになった。

私は迷わずそれを手に取りレジに向かい、大きな専用の貸出袋に入ったアルバムを大切に家に持ち帰った。

本当に初めてだった。

一曲もそのアーティストの曲を知らないままアルバムを借りてしまうとは。

そんな初めての衝動に自身で少し戸惑いながら、その衝動が私のそれからの音楽生活を煌めきと共に彩ってくれることを、湧き上がる静かな胸の高鳴りが教えてくれていたのだと。

そのレコードに針を落とした時、知ることになった。

そして確かなものになった。




【②へ続く】




「Self Control」のジャケット裏表。
私にはモダンで斬新、センセーショナルで今でも最も好きなジャケット。

デザインは高橋伸明氏。
私はどうやら高橋氏のデザインがどストライクらしい。



私がTM NETWORKに溺れゆく切欠を作ってくれた記念すべき「GB」1987年4月号。懐かしくて涙出そう。しかしまだこれを購入した時点ではこの表紙にときめいてはいなかったという時間差沼。

当時のラインナップ、嗚呼懐かしや。

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