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後発酵茶・菩提酸茶の歩み(1)

菩提酸茶(ぼだいさんちゃ)とは

菩提酸茶晩茶研究会独自の製法で製造している後発酵茶である。圃場が静岡県袋井市豊沢(菩提地区)にあり、酸味が強いことから菩提酸茶と名付けた。

日本の後発酵茶は4種類あると言われてきた。

・碁石茶
・阿波晩茶
・石鎚黒茶
・バタバタ茶(富山県旭町蛭谷地区の黒茶)

菩提酸茶は阿波晩茶と碁石茶の中間的な酸味があり、柑橘系の香りが特徴だ。現在は晩茶研究会のメンバー4名で東京農業大学・内野昌孝教授の指導を受けながら研究・製造を行ってる。

菩提酸茶 受賞歴
世界緑茶コンテスト2020 特別賞
Japanese Tea Selection Paris2020 その他部門 銀賞
後発酵茶とは
微生物で発酵させた茶で、日本では麹菌または乳酸菌、またはその両方で発酵させている。紅茶や烏龍茶は発酵茶、半発酵茶と呼ばれますが、実際には微生物による発酵ではなく酵素による酸化です。

日本の後発酵茶
(1)麹菌発酵
バタバタ茶(富山県)
(2)乳酸発酵
阿波晩茶(徳島県)、やまの発酵晩茶(大分県)、菩提酸茶(静岡県)
(3)2段階発酵(一次発酵:麹菌発酵 二次発酵:乳酸発酵)
碁石茶(高知県)、石鎚黒茶(愛媛県)

きっかけは晩茶研究会の発足

2019年3月30日、元愛知大学教授・松下智先生の呼びかけで「晩茶研究会」が発足した。

晩茶研究会 設立趣意書

リーフ茶の消費が減少し、茶の取引価格が低迷している現在、日本茶業は危機的な状態に置かれていてると言っても過言ではない。このままでは養蚕の二の舞になり、急激な衰退が起きることになるのではないかと思う。

幸いにして、茶は飲み物であり、身体の諸機能に効能を持っていることである。茶の諸機能の真髄はタンニンであり、タンニンを活かした茶が晩茶であり、その晩茶は日本の煎茶よりはるかに長い歴史があり、茶の原点といえるものである。

現在の茶の危機に際して、この原点に立ち返って、現在の茶を考える必要がある。本会の活動を通して、日本各地に伝承されている晩茶を育て、晩茶の良さを守り、広く人々に知っていただき、日本茶再興のいち方途ともなることを念願するところである。

よってここに晩茶研究会の設立を発起する次第である。

設立者 松下智

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(写真)ホワイトボードに書かれた会の名称/正式発足は2020年3月21日

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(写真)晩茶研究会会長 元愛知大学教授 松下智先生

晩茶とは
晩茶は晩は「おそく」の意で、葉が成長し硬化した後に製造される茶の総称である。地方茶とも呼ばれ日本古来の伝統製法で作られている。多くは自然乾燥(天日干し、陰干し)の工程を含む。一般に流通する「番茶」と区別するために晩茶研究会では「晩茶」という名称を使用している。

番茶については日本茶業中央会が以下のように定義している。

・番茶又は川柳
新芽が伸びて硬くなった茶葉や古葉、茎などを原料として製造したもの及び茶期(一番茶、二番茶、三番茶など)との間に摘採した茶葉を製造したもの
-緑茶の表示基準 2019年3月 日本茶業中央会-

https://www.hateshinai-ocha-monogatari.com/blog/bancha/

晩茶研究会は以下の3つの目的を掲げて活動を行っている。

(1)晩茶の調査研究
(2)晩茶の普及促進及び消費拡大
(3)晩茶の生産拡大

会の発足以前から、袋井市の手もみ保存会や松下コレクションを活かす会が中心となって寒茶(真冬に製造する日干茶・おだやかな糖の甘みが特徴)の製造を行っていた。

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(写真)2018年1月26日 静岡県袋井市で寒茶の製造に取り組む。寒茶は愛知県の足助町や徳島県・宍喰町、丹波篠山市などで製造されている。後に寒茶を原料に菩提酸茶を製造することになる。

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(写真)しっかりと蒸し上がった寒茶。ふかし芋のような臭いが特徴。

会の発足を記念して真夏に晩茶を作ろうということになり、発足後初めての活動として伝統製法による乳酸発酵茶作りに挑戦した。

阿波晩茶製法による晩茶づくりに挑戦

2019年8月、袋井市豊沢地区で晩茶研究会の初イベント「伝統的な樽漬け後発酵茶づくり」が行われた。一般の方も含めて20名弱参加し、阿波晩茶製法で2樽製造した。

発酵晩茶製造工程:
手摘み→茹でる→揉捻(揉捻機)→漬け込み(一ヶ月)→天日干し(2日)

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(写真)13名で手摘み。慣れない作業で1時間半で生葉は24kgだった。

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(写真)茶葉を茹でて殺青。煮汁は漬け込み時に使用する。

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(写真)揉捻を終えた茶葉は泡だらけに。お茶の花に含まれるサポニンが原因(ぼてぼて茶と同じ原理)で、阿波晩茶の製造資料にはこうした場合米ぬか(界面活性剤の役割)を入れて泡を切る方法が記載されている。一番上に見えているのは芭蕉の葉で抗菌効果があると言われている。

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(写真)木樽とプラ樽の2つに分けて製造。意外にもプラ樽の方が若干酸味が強く感じられた。

完成、しかし本場の乳酸発酵茶には遠く及ばない出来

1ヶ月間の発酵と2日間の天日干しを経てお茶は完成したが、酸味も香りも薄く、本場の阿波晩茶には遠く及ばないものだった。

やはり静岡で乳酸発酵茶を製造するのは難しいのではないか、そもそも発酵に適した乳酸菌が存在しないのではないか、と諦めに近い気持ちになった。

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(写真)完成した袋井発酵晩茶。外観は悪くないものの・・・

わずかに感じられる酸味に希望をつなぐ

最初のチャレンジは失敗に終わったが、結果的に四国の後発酵茶の持つ香味の奥深さ、素晴らしさ、伝統製法の偉大さを改めて実感することができた。爽やかな酸味と香味の阿波晩茶を飲むと「10年かかっても挑戦してみたい!」という気持ちが沸き起こってきた。

偉大な四国の後発酵茶に少しでも近づきたい。

わずかに感じられる酸味に希望をつなぐことにした。

菩提酸茶の歩み(2)へ続く




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