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国後島へ飛ぶ

8月のある日、国後島にこんな模様が描かれました。flightradar24 の飛行航跡です。着陸しようと滑走路へ何度か進入したようですが、おそらく天候の影響でしょう、最終的には引き返していきました。

着陸できない !

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▲ 滑走路01への進入(flightradar24)

ここは国後島の飛行場、メンデレーエフ空港です。ロシアのAIPによれば、南北に走る1本の滑走路0119があり、長さは 2,056メートル、幅が36メートルで、コンクリート舗装されています。

AIP : Aeronautical Information Publication

このときは滑走路01への着陸を3回にわたって試みましたが、着陸はできませんでした。

念のため、国後島とメンデレーエフ空港の場所を確認しておきましょう。

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▲ 国後島の飛行場(AOPA Russia)

国後島は知床半島の東隣りに位置しており、島で唯一の空港は地図の青丸の位置にあります。滑走路の平面図は、AIPから切り出して貼り付けました。

進入方式 と 出発方式

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▲ 飛行高度と速度(flightradar24 に加筆)

ユジノサハリンスクを発ってから、メンデレーエフ空港進入の3トライを経てユジノサハリンスクまで引き返した飛行の、速度・高度のグラフと飛行航跡の図です。少し書き加えました。

8月22日の日本時間11時12分にユジノサハリンスクのホムトヴォ空港を離陸し、FL210で国後島に向かいました。メンデレーエフ空港には、滑走路01側にだけ精密進入できる計器着陸装置が設置されているので、たぶんILS進入を行ったはずです。AIPのアプローチ・チャートを見てみましょう。

FL : Flight Level
ILS : Instrument Landing System

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ILS RWY01進入(AIPから切り出し。 (かっこ)内の数値は空港の標高からの高さ[メートル])

ロシア語が分からないので、以下は想像です。

周波数525kHzのコンパスロケータ(NDB)を頼りに、空港の南に設定されたIAFを目指し、そこを高度1050~1800mで通過します。就航しているDHC-8-400Q400)はカテゴリーCなので 219°で南西に向け高度600mまで降下し、左旋回してLOCをキャプチャします。

014°のLOCコース上で高度600mを維持し、12.5km DME(FAF)からGPに乗ってパス角2°40′(約2.7°)で滑走路01に進入します。DMEは01の接地点付近に置かれています。DME 4.3km地点にあるのはILSのOMでしょう。さらに進入を続けると、0.8km地点(MAPt)にMMとNDB(255kHz)があるようです。

DME : Distance Measuring Equipment
FAF : Final Approach Fix
GP : Glide Path
IAF : Initial Approach Fix
LOC : Localizer
MAPt : Missed Approach Point
MM : Middle Marker
NDB : Non-Directional radio Beacon
OM : Outer Marker

滑走路や灯火が見えないときは、針路014°のまま上昇します。高度400mで左旋回し、183°でIAFに戻ります。そして高度1050m以上(2100m以下)で 069°/249°のホールディングパターンに入ります。

これを3度も繰り返したのですから、回復が見込めそうなギリギリの気象状況だったのでしょう。しかし、ILS進入で無理なら諦めざるを得ません。残念ながら引き返してユジノサハリンスクに着いたときは、離陸から3時間以上経過していました。

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風向きが異なるときのため、反対側の滑走路19への進入方法も見ておきます。

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RWY19への標準進入方式の一つ(AIPから)

コンパスロケータ(525kHz)から右旋回で014°で滑走路と平行に北上します。高度600mから右旋回で高度400mまで降下し滑走路19にアラインしたら、ウェイポイントTHCを高度400mで通過し滑走路19に進入する、というパターンです。

実際に進入した飛行航跡を flightradar24で見てみましょう。

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▲ 滑走路01/19の進入航跡(flightradar24、合成)

8月15日は、滑走路01へのILS進入だけでなく、滑走路19側からも進入していました。この日はゴーアラウンドすることなく着陸できていました。

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▲ 滑走路01/19からの出発航跡(flightradar24、合成)

別の日の飛行航跡を合成した図です。いったん南の海上に出てから北東に向かう出発方式です。

北方領土で最大の街である古釜布(ユジノクリーリスク)から、標高200メートルほどのメンデレーエフ空港までは道なりに約25キロメートルの距離(Googleマップで計測)です。おそらく車で30~40分かかるでしょう。

国後島から来た!?

ことし8月、国後島から泳いできたというロシア人男性が標津町で発見された、という報道がありました。現在、難民申請中だそうです。国後島と北海道本土との距離は、いちばん近いところで16kmほど。国後島のノツエト岬付近と、別海町の野付半島トド原の距離です。その男性は、国後島の南端に位置する泊村に住んでいたようですが、本当に泳いだとしても最短距離では不可能でしょうから、根室海峡を20km以上も横断したことになります。さて、どういった扱いとなるものでしょうか…。

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▲ 道東エリアと国後島(flightradar24、合成)

国後島のメンデレーエフ空港にいちばん近い空港は、中標津空港です。直線で約70 km(約38nm)という距離、飛行機ならわずか数十分のフライト。北方領土への「空路墓参」(※)では、オーロラ航空(ロシア)のチャーター機を使用して中標津~国後島~択捉島の間をダイレクトに飛行しました。

航空機を利用した元島民による北方領土特別墓参

8月21日には、メンデレーエフ空港に向かうQ400と、中標津空港に向かうA320が、ほぼ同時刻にそれぞれ着陸しました。乗客の乗り降りの後、再び離陸した時刻もほとんど一緒。そのときの飛行航跡です。お互いの進入方式や出発方式が接近しすぎないよう、気を使いながら設定されているのかもしれません。その昔には、ロシア機のスクランブル沙汰もあったとか聞いたことがあります。

国後島やメンデレーエフ空港については、さらに情報収集してみたいと思っています。


(2021年9月30日、誤記修正)

※ 記事の内容は作成当時のものです。その後、アプローチ・チャートなどは大幅に変更されていますのでご注意ください。


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