ニセ札という名のババ抜き
ある日のこと、腕時計の電池が切れたため上海の繁華街の時計屋で電池交換をして貰いました。
お財布から50元札を出して支払いをしようとしたところその店員、
「これ偽札じゃないの!!」
と怒鳴りました。最初は相手は私が確信犯だと思って怒鳴ったわけですが私がビックリして、
「え…、偽札?なぜ偽札だと分かるんです?」
と言ったところ、私が外国人だと分かり、やおら店員が集まって来て親切に偽札の特徴や見分け方を教えてくれました。そして取り敢えず別のお札で代金を払い、その偽札は銀行に持っていけば大丈夫かと聞いたら、没収され終わりだと言われてしまいました。
当時は就職したばかりの頃で留学時代の貧乏性は健在でした。50元は当時の上海の地下鉄に25回乗れると思うと大金です。何か悔しい気がしました。そこでどうすればいいか会社の中国人の同僚に聞いてみました。
するとみんな大喜びで自論を展開します。
「私なら貰った所に返すんだね。え、タクシーから?なら同じタクシー会社に返すんだね!」
なるほど。
「私なら市場に行って半ばボーッとしてるおじいさんに渡します。」
それ、普通に酷いから。
「タクシーは偽札が多いから交通カード(Suicaみたいなもの、タクシーでも使える)で代金を支払って下さい。現金を使ってはいけません。」
おお、合理的な意見だ。ありがとう。
取り敢えず夜中にタクシーを降りるとき、しれっと偽札を運転手に渡しました。運転手、一度は受け取りましたがすぐに普通に無言で返しました。暗がりなのに?大手タクシー会社のプロ運転手は手触りで分かるようです。
困りました。
こちらも策を練ります。
色々考えましたが、やはり貰ったところに返すのが一番理に叶ってる気がしました。
別のある日の夜、敢えて偽札を渡されたタクシー会社のタクシーに乗り降車する際、運転手に、
「領収書!あと急いでるんだから早くお釣り!」
作戦成功。果たして普通に受け取られ、お釣りもちゃんと貰えました。
約2ヶ月くらいは掛かりましたか、ようやく私の手元から皺くちゃの偽札を手放すことに成功したのです。あー、良かった!!!
…
と、思ったのも束の間の、ある日。
私はとあるクライアント先にいました。新しく中国法人代表として日本から来られた駐在員の方にご挨拶に伺っていました。商談もそこそこ世間話になったところ、先方が仰いました。
「そういえばやぶのねさん、先日タクシーに乗ったら僕、偽札を掴まされちゃいましてね。これがそうなんですが。」
と見せられたお札に見覚えが…
「あ、あの…、ひょっとしてそのタクシーは藍色連盟の紺色のタクシーではありませんでしたか…!?」
「ええ、まさにそうでしたが…」
「す、すみません!!!その偽札、私がそのタクシー会社に掴まされたからそのタクシー会社に返したものなんです!申し訳ないので私、本物とお取り換えします!」
「いやいやもういいですよ、こんなこと滅多にあることではないので記念に取っておきます。」
中国では決して珍しいことではないので知ってる限りの偽札の見分け方をお教えしました。
偽札は受け取るのも渡すのもいい気分ではありません。その手痛い経験からくれぐれも気を付け、偽札の見分け方も色々な中国人に聞いて学び、それから二度と偽札を手にしたことはありません。ちょっとでも怪しいものは「悪いけど別のと取り換えてくれ」と頼みました。偽札は誰しも苦労しているせいでしょうか、嫌味も言われず普通に交換してくれました。
中国全土で繰り広げられる広大な偽札のババ抜き、今も行われてるんだろうなぁ。たまにそう、中国大陸に思いを馳せています。
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