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連続小説「金=愛 〜大人〜」一話

早く大人になりたいと思っていた。
僕は今年成人式を迎えた。成人式を迎えたら大人になるのだろうか。左手にビール右手に煙草、これは大人の象徴なのだろうか。昔、お父さんが吸っていたタバコをバレないように盗んでベランダで吸ったがその時はまだ高校生の頃で、大人はよくこんなまずいもの好むなとか思ったりした。
そんな僕も今では煙草がないと口元が寂しくて仕方がない。
こんなもんは時代じゃない、臭い、お金がかかるよ、とか色々言われる。そんなこと知ってる。第一1番お金がないのは買ってる本人なのだから。今日の晩飯を抜きにして、何も買わずレジ前まで行き番号だけ伝える自分を惨めだと思う。
バイト代だけでは賄えない苦学生の現実。
学業優先?そんなもんわかってる。それでも僕はバイトをしなければ食っていけない、生きていけない。
かと言って仕送りをもらっている友達が憎たらしいと思うことはない。僕は僕の意思で大学に来たのだから。貧乏な家だと分かっていながら奨学金を上限ギリギリまで借りて、親を説得をしてなんとか来れた大学なのだから。僕は自分の事は自分でなんとかするのだ。
それでもこの頃はその生活に少し疲れてきてしまった。早く大人になりたい。自分で稼いだお金で全てをやりくりしたい。
いや、きっとそれは嘘で、本当は幸せになりたいのだ。あの子と一緒になんの心配もなく。
それが学生という立場ではできない。あと三年、あと二年、あと一年と相手を待たせてしまう自分が嫌いだ。それでも自分の選んだ道だろうとムチ打つ夜に電話越しに「同棲したいね」と悪魔の囁き。
もちろん彼女のことは愛しているし、できることなら僕もしたい。だが、現実的ではない。仕送りがなく、奨学金とバイト代でやっと食べていけるこの状態では同棲なんかしてもうまくいくわけがない。
だから僕は言う。
「あと二年待ってくれ。必ず幸せにするから。」
彼女は学生じゃない、彼女は大人だ。
だから、彼女を養ってあげれる力がない僕の非力さを経済力のない僕をどうか笑ってくれ。
そしてまた喧嘩する。

続く