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PPP的関心2023#18【『路線価図でまち歩き』読みました。地域を元気にする取り組みは地代・地価に帰結する】

GW中も執筆や訪問先への移動などなんだかんだでゆっくりと…という感じでもないのですが、放出ばかりではバランスが悪いのはどんなことでも同じで少しづつでも刺激を入れないといけません。
ということで今回は最近読んだ書籍とそこから考えたことなどを。

書籍紹介『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域をよみとく』

筆者の中川さんは直接お会いしてお話しするといつもユニークな視点にハッとする気づきを与えていただくことが多い方です。この新著では実際に街を歩いてみた中川さんだからこその説得力をとても感じます。
書かれているとおり、路線価図なんてそれが必要なお仕事につかない限りは「見ろ」と言われるまでは見ることのない情報だと思います。しかし路線価図に記された数値を実際の風景と突き合わせながら見て歩くことで「なぜ」「なんで」を頭の中に浮かべ、なぜ?なんで?を自分の中で解消することで不動産を見る眼、リテラシーを高めるというのはその通りだと思いました。
まちづくり的な仕事や役割を担いたいけれど「業」として不動産に向き合う経験のない方にはこうした経験は有効そうだと改めて思いました。
*そういえば…。本を読みながら思い起こしたのはリノベーションスクールでトレジャーハンティングと呼ばれる街の中の「お宝物件」を発見するためのまち歩きと、地域の不動産価値情報を一覧化し「家賃断層帯」と呼ばれる地域の穴場を数値で照らし合わせる手法。通じるものがあるなと思います。

ちなみに。コラム「路線価でひもとく街の歴史」も面白い!

ちなみに。
いつも間接的に学びをいただいている大和総研 主任研究員 鈴木 文彦さんが財務省の広報誌『ファイナンス』に連載されている「路線価でひもとく街の歴史」というコラムがあります。
毎回読んでます…というわけではないですが(正直すぎてすみません…汗)SNSで発見した際には楽しみに読ませていただいているコラムです。

鈴木さんご本人曰く、コラムのテーマ(目的)は「具体的には「街の構造を発展史的に把握し将来の街づくりを考えること」なのだそうですが、地価に着目し街を実際に見聞し、その街で何が起こってきたのか、何が起こってるのかに着目している点では、中川さんの新著で著されている視点に共通するものがあるように思います。

ところで。不動産の「価格」についておさらい

1物1価でない?1物4価って

冒頭で紹介した書籍の中でも触れられていましたが、不動産の「価格」には4つの価格があるとされています。

1)実勢価格
不動産取引の際に売主買主の間で合意される価格、いわゆる市場価格。
近隣や似たような取引のケース参考に決められますが、不動産には全く同じものはないこと、売主や買主の「思惑」でも変動するところが一律的な価値とは言い難いところ。
2)公示価格
国土交通省が毎年1月1日時点の土地を算定した価格(全国の標準地(2020年は計2万6000地点、うち7地点は調査休止)の1㎡当りの価格)。類似の指標には「基準地価」があり、国ではなく都道府県が毎年7月1日に各地の基準地2万2000地点の価格として9月下旬に公表される。
3)固定資産税評価額
国税庁が毎年1月1日における価格を7月初旬に公表。
公示地価の80%が目安とされている。
4)相続税評価額(路線価)
国税庁が算定し毎年1月1日時点の価額で7月に公表される価格。
公示地価の70%が目安とされている。

これら4つの価格は、たまたま「価格」を必要とする場面(税を払う、取引をする…などの場面)によってどの価格を適用するかが違うだけで「どれも正しい」というところが余計にややこしいところです。

不動産を「鑑定」するって

4価のうち、実勢価格は市場での相対の結果であって当事者間の思惑や取引時点の経済環境などによっても変動がある価格です。しかし公示価格、固定資産税評価額、相続税評価額(路線価)はそうでありません。

地価公示は、地価公示法(昭和44年法律第49号)にもとづいて、土地鑑定委員会が、毎年1月1日時点における標準地の正常な価格を3月に公示するものであり、一般の土地の取引価格に対して指標を与え、公共用地の取得価格の算定に資するとともに、不動産鑑定士等が土地についての鑑定評価を行う場合の規準等となることにより、適正な地価の形成に寄与することを目的としています。また、公示価格は、これらの役割に加え、公的土地評価の均衡化・適正化の観点から、相続税評価や固定資産税評価の目安として活用されているとともに、土地の再評価に関する法律、国有財産、企業会計の販売用不動産の時価評価の基準としても活用されるなど、地価公示制度の重要性が高まっています。

公示価格の判定
公示価格は、地価公示法第2条に基づいて、土地鑑定委員会が、2人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行って、当該標準地の1平方メートル当たりの正常な価格を判定しています。

国土交通省HP より

以上のように「鑑定評価」が重要になるわけですが、鑑定評価には「基準」が示されています。

不動産の価格は、一般に、
(1)その不動産に対してわれわれが認める効用
(2)その不動産の相対的稀少性
(3)その不動産に対する有効需要
の三者の相関結合によって生ずる不動産の経済価値を、貨幣額をもって表示したものである。

不動産鑑定評価基準 より

この記述の中で重要で意識に留めておくべきキーワードは「効用」「相対的希少性」「有効需要」、そしてこの3つの要素の相関関係により生じる経済価値という言葉だと思います。

まちづくり、地域を元気にする取組みは地代・地価に反映する。という視点

PPP的関心は東洋大学PPPスクールでの学びや気づきを起点に書き始めたのですが、筆者は別の建築系の大学で「不動産学基礎」という講義を担当しています。

不動産学の講義では、土地の価値とは土地を使ったビジネスの生産性、起源的には農業生産収穫高によって決まり、肥沃な土地は価値があるということを起点に、生産技術の向上によって生産性が上がり余剰生産を交換する経済へと移行するにつれて余剰生産物を交換する場所 ≒ 市場との立地関係が価値に加味され、さらに交通ネットワークの発展とともにヒトモノの移動がより流動的になると同時に生産方法が多様化(工業化、サービス業化)する中で土地自体が交換取引の対象となる市場が形成されたことで土地の評価の視点が収量に応じた使用対価である地代に加え収穫装置としての土地の交換価値である地価へと移っていったということを振り返っています。

現代に置き換えて考えると、その場所でどんなことを仕掛け、ヒトモノカネを呼び起こし、そこ場所で生み出される付加価値を大きくする ≒ 土地の上での生産活動の生産性を高める、収量を拡大する、付加価値を拡大することが地代の上昇を呼び、その結果地価につながると置き換えることができます。

まちづくり、地域を元気にするという取り組みは、まさに「その場所でどんなことを仕掛け、ヒトモノカネを呼び起こし、そこ場所で生み出される付加価値を大きくする」取り組みに他ならないと思います。

今回紹介した本は、まさに街に何が起こっているか、起こっていることの差が地価に現れているという理解を促すメッセージだと思いました。これからもそんな視点を持ったまちづくり、地域を元気にする活動に注目をしていきたいと思います。



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