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PPP的関心【自治体の稼ぐ力と可能性。セミナー「自治体の財政診断入門」に参加して】

毎週「書く」ことも含め、アウトプットばかりではどうもバランスに欠けるものでして、たまにはインプットも必要です。
ということで、先日人伝ての紹介で知り合いになった方が主催されている、公務員の方々が集うサークルのセミナー(勉強会)に参加してみました。

【紹介】地方公務員オンラインサロン( 株式会社ホルグ

今回参加したのは「地方公務員サロン」という公務員ネットワークの勉強会です。公務員オンラインサロンとは以下のような場として株式会社ホルグ社により提供されています。

■地方公務員が限定で加入できる有料コミュニティ
■公務員の勉強会のオンライン版のようなイメージで、著名人(首長、自治体職員、経営者、研究者など)のオンラインセミナー等のイベントを月に4~6回程度開催

「公務員オンラインサロン」紹介ページより抜粋

今回は公務員サロンのメンバー以外でも参加可能なオープンセミナーがたまたま開催されていたこと、最近、自分自身の仕事の関連で関心が高くなっている自治体財政に関連する話題提供ということで、早速申し込みました。

参加した回のテーマ「自治体の財政診断入門」

当日の演題は『自治体の財政診断入門: 「損益計算書」を作れば稼ぐ力がわかる』という題で、大和総研の鈴木文彦氏によるお話でした。
話題のもとになる題材は昨年12月(2ヶ月前)に鈴木さんが出された著書をベースにした解説と+αの情報を聞かせていただくというもので、楽しく拝聴させていただきました。

「貸し手」目線で把握、診断

書籍の目次に揃えながら振り返ると、第3章と第5章に関わる部分が面白いと感じました。特に「貸し手目線」というあたりです。
(極端な言い方です)仮に足らず米があった時に「借りることができてしまう」自治体にとって貸してもらえるかの裏付けとなる「(自身の)稼ぐ力」は従来あまり関心を集めてこなかったところを、これからはお金の貸し手(鈴木氏は元銀行マンというキャリア)から見て「貸しても良い相手なのか」という目線" でも "見てみようというお話は大変興味深かったです。

第3章 損益計算書による財政診断
1.“貸し手"目線で状況を把握する
2.キャッシュフロー分析指標で問題を診断する
3.財政悪化の原因を特定する
4.悪化の兆候をみつける意義
第4章 損益計算書でわかる地方財政の実態
1.福祉費で圧迫される自治体財政
2.都道府県の台所事情
3.実は資金繰りが厳しい政令指定都市
4.補助金への依存度は高いが健全な小規模自治体
5.平成の大合併の効果はあったのか
第5章 損益計算書を踏まえた財政改善の視点
1.経営改善計画の考え方
2.将来ビジョンに基づく収入の見極めと支出の順位づけ
3.地域経済活性化と財政改善

『自治体の財政診断入門: 「損益計算書」を作れば稼ぐ力がわかる』も記事より抜粋

民間に擬えることの前提と可能性

足らず米の補填や将来の投資への種銭として「お金を借りることができる」のは、そこに「期待」があるからだと思います。そしてその期待の源泉は「稼ぐ力(換金モデルの良さ)」というのが一般的な理解だと思います。

サービスと対価の関係の違い

行政の「稼ぐ力」を民間に擬えて捉える際に、背景にある税制(ルール)がもたらす「違い」を抑えておかなくてはと思います。

そもそも政府部門による公共サービスの提供は、本来ならば財やサービスは市場において合理的な判断の元に取引されるはずが、独占や外部不経済などの発生により必要な財・サービスであっても市場で供給できない状況が発生すること(市場の失敗)。市場の失敗を補うため民間が税を負担し政府部門に公共サービスの提供を託すことになることから起こっています。
しかし、サービス提供を託された政府部門も、費用対効果の考慮不足や手段の目的化などによる非効率な公共サービス提供(政府の失敗)を発生させてしまう可能性があります。

政府の失敗を「サービスと対価」の関係という点で考えてみました。
税はサービス費用の一括払い(または先払い)的な面があります。政府部門内の決定次第で、税を原資に実施される公共サービスが想定(期待)よりも低品質、好ましい分野配分になっていないとしてもすでに対価は発生済みということです。
もし民民間の取引で先にお金を払ったのに、後から提供されるサービス品質水準や提供範囲が想定(期待)と違う運営がされれば、利用者は以降のお金を払いません。またサービスを受け取った後にお金を払う取引だとしても、事前に提示された品質や提供範囲と実際が違っていればお金は支払われないか減額されます。どちらにしても、そのようなサービス提供事業者はいずれ立ち行かなくなることが明らかです。
サービスと対価の関係が相応と受け止められるには「誰のため・何のため、何を、どんなふうに」行い「どんな状態を創る」というサービス品質と範囲を明示しなければそもそも判断ができません。
その辺りについて「伝わる」情報発信(優先順位付、規模、主体、手法等)が前提になければ、そもそも民間に擬えるにしても意味のある数字の比較にならないのではないか…そんなことを思いました。

先にあるプロジェクトファイナンス発想

一方で、自治体の稼ぐ力を明らかにすることによって、「可能性」が高まることもあると思います。

どんな状態を創るかというゴールとそこへの道のりについて「伝わる」情報発信がされる前提があることで、本当に「稼ぐ力」があるのか?稼ぐ期待が持てるか?という評価を得易くなるわけですが、そうした評価は、将来PPP的な取組みの成否を分け、自治体の持続可能性を高めることに繋がる重要な要素だと思います。

冒頭にも"(極端な言い方です)仮に足らず米があった時に「借りることができてしまう」自治体"と書きましたが、その状態は、税制による確実性の高い歳入がもたらす信用力を裏付けにした、いわばコーポレートファイナンスを受けられる状況にあったからだとも言えます。

これまで何度かPPP的関心の記事でも書いてきたように、社会構造の変化がもたらす歳入・歳出構造の変容は、政府部門の支出による事業実施の余力を下げ、そのことで新たな施設整備や現状の維持管理に振り向ける資金、公的サービスの質的改善のための投資資金の確保を難しくします。そうした背景が民間の資金や活力を導入した「PPP」を用いて事業を推進する必然性にもつながっているわけです。
PPP的な取組みにおいては、公的サービス提供としての「善悪」の価値観は大事なのですが「損得」という価値観も外せません。PPP的な取組みの主役である政府部門、民間企業とも双方の信用力や担保に基づいたコーポレートファイナンスではなく「プロジェクトファイナンス」によって資金を集め、事業を立ち上げるからです。
プロジェクトファイナンスとは、事業主体が事業を立ち上げる際の資金調達にあたって、事業(プロジェクト)自体から生じる収益や事業の持つ資産をもとに調達する方法です。

どんな状態を創るかというゴールとそこへの道のりについて「伝わる」情報発信を通じて自治体の真の稼ぐ力が明らかになることで高まる「可能性」と書いた理由はここにあります。
事業(プロジェクト)の目的、手法、結果を明示するという「行動習慣」はこれからの自治体経営においても大切な習慣となるはずです。

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