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PPP的関心2023#07【注目書籍『公民連携エージェント』を読んで】

先行予約で発注して手元に届いたタイミングから偶然にも出張が重なり、ようやく注目の書籍『公民連携エージェント 「まち」と「まちを使う人」を元気にする仕事』を読み終えることができました。今回のPPP的関心では感想や印象に残ったポイントなどを記録しておこうと思います。
写真は2022年6月に書籍の舞台でもあるmorinekiを訪れた際に撮った一枚。

書籍の紹介

著者の入江さんには、私が担当する東洋大学PPPスクールで担当する「まちづくりビジネス論」にゲストレクチャーとしてお越しいただいたことがあります。書籍の中心題材となっている民間による市営住宅整備に関する取組みについてお話してもらいました。当時はまさに事業も大詰めの頃だったのはないかと記憶しています。講義でも書籍の文章のように理路整然で、明快な表現で素晴らしい講義をしていただいたきました。
もちろん今回の書籍でもその1行1行からいや行間からも「ハキハキさ」が伝わる文章や言葉使いに溢れ、改めて入江さんのロジカルな一面とプロジェクトに対する強く固い意志と熱いパッションもつ強い一面を感じ取ることができました。

目次
■1 公務員が公民連携エージェントになった理由
・公営住宅革命をおこしたい!
・エージェントとは 
・公民連携条例のあるまち 
・市民、民間と一緒に公共サービスをつくる 
・マーケットと向き合い、エリアの価値を上げる 
・民間が求めるものは潜在的な集客と「そこにしかない魅力」 
・エリアの価値を上げるのは民間主導の公民連携事業とそれに共鳴する民間事業 
・「公民連携でしかできないこと」で地域経済を回す 
・ハコモノからマルシェ・メディア事業、健康づくり事業へ 
【Column】 「社会課題で儲ける!」とか言っても、変な顔されない。 
■2 市営住宅営繕担当者としてぶつかった壁
・このままで良いのか!? 市営住宅 
・「地域の象徴のようなコンクリートの大きな箱は要らん!」 
・FM(ファシリティマネジメント)の観点から 
・まちづくりの主役を公共事業から民間事業へ 
■3 公民連携まちづくりの最前線、紫波町オガールで学んだこと
・株式会社オガール代表・岡崎正信氏のもとで実務を経験 
・仕事は納期・予算・品質の順に優先せよ 
・テナント先付け逆算開発 
・金融機関と向き合い事業を強いものにする 
・テナントが「ここで商売をし続けたい」と思える環境づくり 
・周辺家賃を牽引する気概を持つ 
・まちづくりに事業として取り組む 
■4 エージェント型PPP手法による市営住宅建て替え事業
・大東市の都市経営課題 
・PPPとPFI 
・大東公民連携まちづくり事業株式会社(コーミン)の設立 
・テナントリーシングの壁 
・工事費の壁 
・金融融資の壁 
・組織の持つ動機をリンクさせよ 
■5 エリアの価値を上げるしかけづくり
・道路を使って稼ぐマルシェ事業「大東ズンチャッチャ夜市」 
・「すっぴん女子」と創るローカルメディア『Nukui』で地元を磨く 
■6 まちを使う人を元気に! 結果を出す健康事業
・体操で元気な人を増やし全国の介護給付費を削減 地域健康プロフェッショナルスクール 
・全国初! まちづくり会社が運営する基幹型地域包括支援センター 
・独居の孤立・孤独リスクを減らすためのツール、ドキドキドッキョ指数 
■7 公民連携エージェントの可能性
・公民連携エージェントの存在意義
・まちづくり会社の経営

PPPエージェントとは

書籍の中で使われている「PPPエージェント」という言葉は耳慣れない言葉だと思います。
ザクっというと、地域の将来ビジョンを行政を含めた市民と共感し、事業に限らず幅広い知識を持ちあわせ、行政の思考特性を理解しながら民間事業者としても市場性と効率性を基に事業を構築(理解)できる「行政の代理人」を指す言葉です。
こうして書き連ねてみると「そんな人いるのか?」なんていう声も聞こえてきそうですが、紹介している書籍の著者である入江さんご自身が実際にPPPエージェントとして市営住宅の再整備を成し遂げているという事実が、その存在の可能性を示していることは言うまでもありません。

エージェント機能。不足要件を「補いながら繋ぐ」。

公民連携事業と従来型事業には「当事者の関係と期待の違い」があります。
それは従来事業(例えば仕様発注の公共事業)では発注側と受注側、指示側と従う側となるが、公民連携事業では目的の共有・共感の形成段階においては同志であり、手法や手順設計においては最善に向かう知恵を出し合う協働者であり不確実性がもたらす危機を分担し合う仲間である、つまりイコールパートナーとなることが求められます。
このような役割や期待の違いを十分に理解、受容せずに進める公民連携事業はどこかで不全に陥る確率が高いと思います。一方で現実としては官民双方の得意分野の違い、経験の違いを理解しあい、すぐにイコールパートナーとして事にあたることができるか?といえばそうではない

また、そもそもの「経験」の違いという違いも受容しなくてはなりません。例えば、事業を始める際に有利な資金調達を考えながら返済可能性をバックキャスティングで考える…といった経験を持つ行政マンは多いとはいえないと思います。あるいは提供サービス改善に取り組む際にマーケティング発想で臨む経験を持つ行政マンも多いとはいえないでしょう。一方で非常に多岐にわたるルールの理解やその読み解きを日常的にしている民間ビジネスマンはほぼいないと思います。

そうなんです。そもそも「違う」のです。

社会構造の変化や生活者の期待の変化は確実に起こっています。そのことは行政だけでできる仕事、民間だけでできる仕事を複雑にしています。ゆえに公民連携=PPP的発想に基づく行動が期待されるわけです。背景や経験が違うからといって地域社会の課題解決に向けた事業を一緒にできない・しないといっている場合ではないのです。そこでは双方の違いを理解でき、違いを「自分(相手)にはない得意分野」に転換でき、結果的に「チーム」の取り組みを円滑かつ効果的にする役割が必要になってくるのです。
その役割を果たす役割こそが「PPPエージェント」なのです。

注目。QCD視点とビジョンとパッション。

QCD視点

そもそも書籍で事例として扱われている市営住宅の民間による再整備と地域の価値を高めたという効果創出というお話は、どの部分を切り取っても注目なのですが、個人的に印象に残った点は「仕事は納期・予算・品質の順に優先せよ」のあたりです。
いわゆるQCD 、Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)に関するお話ですが、書籍のケースのようにハード整備を伴う事業の場合、一般的にはVE(Value Engineering)の観点からQuality(品質)とCost(コスト)に目が行きがちだと思います。ところがこの本の中ではDelivery(納期)だといっています。
なぜか。
書籍の中にも書かれている視点ですが、要は「事業」を考えているからだと理解できます。例えば、借入で事業を行うのであれば時間が費用を増やすということですし、どんなに時間をかけても良いから良いものを…という言葉を耳にすることもありますがそれでは事業の「機会」を失いかねません。
「仕事は納期・予算・品質の順」が意味するのは、事業の価値を高め効果を高めるために、余分な費用をかけず機会を逃さないために必要な優先順位を示しているといえます。

公民連携による事業では、多くの場合、地域内の経済循環を回復させるような民間「事業」が組み入れられ、あるいは公的サービスの持続可能性を高めるために「事業(がもたらす利益)」をその原資とします。ゆえに「事業」を通じて地域社会の課題解決に向かう責任感は「納期意識」に現れるということをリマインドする機会となりました。

ビジョンとパッション

もう一つ印象に残ったことは、PPPエージェントの要件のうちテクニカルな知見ではなく明確なビジョンと熱いパッションを持っているかが成否を分けるということです。
これは行政でも民間でもどんな仕事でも同じかもしれませんが、著者・入江さんの仕事から改めて教えを受けた感じがします。そういう意味で印象深いポイントでした。
冒頭にも書きましたが公民連携事業を推進する際の「行政の代理人」として官民の間に立つとき、協働・共創をより効果的に進めるために将来ビジョンを行政を含めた市民と共感の醸成と共感創造のための情熱と熱量が必要なのだという基本的なことを伝える入江さんの一冊でした。


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