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PPP的関心2023#32【廃校Re活用にみる、官民双方に試される「変われる力」】

先週の投稿でNewマガジン計画中と書きましたが、今週はこれまでの続きのPPP的関心というタイトルで視察記録的な記事として、先日訪問した京都府福知山市の「廃校Re:活用プロジェクト」について見聞して再確認したことを整理して書こうと思います。


京都府福知山市。廃校Re活用プロジェクト

京都府の北西部にある福知山市。実際に足を踏み入れたのは今回が初めてでした。いざ行ってみよう、となると案外アクセスはよく、「北近畿の交通の要衝で京都や大阪、神戸などの大都市へのアクセスも容易」というコメントも実際にそうだなと実感できました。

福知山市と「廃校」

訪問してみると、街中から離れるとすぐに田畑が広がっている緑豊かな風景が目に入ってきます。しかし現地の産業は(伺った話では)交通結節点である地の利を活かした物流や製造業拠点が経済を牽引しているそうです(工業団地的なものも目につきます)。
また某政治家の一声で拡張整備された幹線国道沿いにはいわゆるナショナルチェーンのロードサイド店舗風景も続いていて、「ほどほど都会的な要素」もありという環境でもあります。加えて出生率も本州の自治体では3番目に高い(H25-29)とのことで、となると子供もそれなりに居そう…と思うわけですが、現実には市町村合併で「福知山市郊外」となったエリアの学校を中心に児童数の減少は顕著で、平成24年度には市内に27あった公立小学校を14に絞り込んだり小・中一環校舎化させることで、16校もの「廃校」が短期間に集中的に出現したのだそうです。

変われる力。民間の「決断力」と行政の「対応力」

廃校をどうするか。その活用にあたって「従来」の基準と手順で進めていたことで思うほどのスピード感で進まなかった利活用が進むようになった契機について伺っている中で注目したことは、「まずやってみる、やってみる中で起こる事柄への対応力を高める」の掛け合わせということです。
その掛け合わせの結果、R2年から4年までのわずか2年間で8校で民間事業がスタートできたという結果につながってているのではないかと感じました。

民間の決断。パイロット事業の立ち上がり

視察したTHE 610 BASE は一連の廃校Re活用事業においていわばパイロットプロジェクト(*先駆的・先行する取組み)の一つです。これをきっかけに行政の進め方にまで変化を起こしたという意味で、まさにパイロット事業といっても良いと思います。

このパイロット事業が立ち上がるにあたって民間側に2つの決断力があったと思います。一つは地元企業として自社の今後のあり方への決断。もう一つは利活用アイデアの発意を任された(という名の丸投げ)地域住民の決断力があったと思います。
旧中六人部(むとべ)小学校の校舎と校庭を使った「THE 610 BASE」では事業を展開する地元企業(井上株式会社)の「私達は、毎日がちゃんと幸せで、成長するいい会社を創ります」という企業哲学のもとに示された「地域貢献」活動の具体な取り組みの一つとして発意された事業です。
制御技術設計、ソフトウェア開発、通信環境まで網羅し、電気設備に関するあらゆる課題解決…という「本業」からおおよそ見当がつかない「農業」で地域を元気にするという計画が「THE 610 BASE」事業でした。

地元住民への連鎖と行政の「対応力の変化」

さて、パッションと実行力がある民間が登場してことは速やかに進んだか?
というと実はそうではなかったそうです。
利活用の窓口となったのは「学校」を所管する担当で、その部署では「決めた手順(地元住民の発意と合意)が起点でないと受け付けられない」という理屈で民間の熱意と計画を受付けることも検討することも進められなかったそうです。

しかし、そもそも学校を減らそうというほどに子供が少ない ≒ 大人が多い(もっと言えば高齢者が目立つ)地元住民の本音としては「(使い方のアイデアと言われても起業もしたことないし投資も考えられない、そんな)住民に将来の活用検討を投げられても困る」というのが本音でした。
そんな折に地元企業の熱意と計画を知った地元住民が「いいアイデアがあるのならなぜ検討しない」、「進めてもらおう」と決断をし、担当部局に投げ返したことでこの取り組みが始まった…という経緯があったそうです。

そんな民間同士の連携も重なり、いよいよ行政が提案を受け取り、検討開始という段になった際に、今回の訪問では行政にも変化が起こったという話を伺いました。
福知山の廃校Re活用の取り組みについては「民間が頑張ったから」という声も正直聞かなくはないのですが、今回の話を伺い「行政の対応力の変化」が重要な変化だったのではないか、そんな印象を強く持っています。

具体的には行政サイドが体制、手順や基準を現実路線に合わせる、言い換えれば「実現させるためには何をすれば良いか」を軸にした体制にシフトしたそうです。
もしも民間が連携して生まれた農業(いちご生産)活用事業の計画が検討の俎上に乗ったとしても、受け取り側が従来の体制や手順・基準のままルールを決めてそれを遵守するような進め方に留まっていたら、スピード感も向上せず、事業の内容も拡張仕切れなかった可能性もありそうです。

変化できたからこその「廃校Re活用プロジェクト」

もちろん、受付体制や手順・基準を変えたからといって問題がなくなったり変わったりするわけではありませんし、そもそも新たな体制自体がコンフリクトを生み出すこともあったかもしれません。
さらに、いざ始めてみるとさまざまな問題(用途地域による用途制約の解決とか排水性能など対処すべき問題への対処、民間との「契約」履行に関わる緊張体験などなど)に直面したそうです。
ただ、直面したことで「公民連携方式で廃校Re活用プロジェクトを進めるにはどうしてゆくべきか、どう準備をしてゆくべきか」を学習し活かしてゆくための「知見」が溜まったという行政にとって大きな財産を得ることができたのではないでしょうか。

福知山での気づき、特にこれからPPP的な取り組みをしたいと考える行政にシェアしたい気づきは、「民間の多様なアイデアを実行力がもたらした多様な事業」だけに着目しいい民間を見つければなんとかなるかも!と理解するのではなく、「実現するにはどうすれば良いか」に向き合いそこで発生するさまざまな問題や課題に自分で向き合い解決した結果だ、ということです。


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