PPP的関心【"DB+指定管理"によるキャンプ場再整備事例視察@長野市】
久しぶりに長野を訪れました。思ったほどの寒さではなくホッとしました。今回の長野訪問は「DB+指定管理」というPPP手法の「合わせ技」によって整備が進められた旧キャンプ場の再整備の現地をみることが目的でした。指定管理事業者とその協働者である建築家に現地をご案内いただきながらお話を伺いました。
*写真はキャンプ場再整備の際に「森の駅」として整備されたの施設の外観(筆者撮影)
最も印象に残った言葉。「公共工事にはクラインントがいない」
最も印象に残ったこの言葉はプロジェクトで設計を担った建築家の宮本氏の言葉です。
使い手がいない(その想定、視点がない)建築は、作り手の思惑(簡単とか安いとか)やルールを守ることが優先され結果的に使いにくくなりがちで、さらに使いにくさの解消のために結果的に追加費用や追加の手間(使い手の人員増を余儀なくさせるとか)がかかってしまうことを指した言葉でした。
今回の「DB+指定管理」というPPP手法の「合わせ技」が実現した背景にもそのような問題意識が行政の選択に反映されたという経緯があるそうです。
当初の行政の要望は周辺のリゾート施設(スキー場)の閉鎖に伴う観光政策の転換を起点に、施設整備をした「あと」の運営を民間事業者に依頼したいというものだったそうですが、相談を受けた事業者(現・指定管理受託者)からの「これまで通りの公共施設の運営だけでは受けられない」「使い手となるクライアントの姿や使い方を明らかにすることで整備過程の経済性や利用の際の利便性を高めることができるはず」という問いかけに対して、担当した行政マンが対応した結果でした。
プロジェクト「nagano forest village」の概要
整備後の「キャンプ場」という公共施設がどうなったかについては、nagano forest villageのHPで紹介したいと思います。
私個人の感想としては、澄んだ空気をいっぱい吸える開放的な場所で、道の駅ならぬ「森の駅」と称した産直販売、レストラン施設もこじんまりとしたものではありますが扱い商品、メニューなどとても魅力的です(視察の時にいただいた鹿肉のサンドウィッチは絶品でした!)。また、公衆トイレ空間の「暖かさ」も良かったです。地中熱を取り込んだ熱交換の仕組みで24時間暖かい空間が提供されている空間は、環境配慮しながら寒冷地の公共施設を運営する手法として注目しました。
参考。当初の長野市の募集要項
プロジェクトの起点は「観光」政策の一環(商工観光部)だったそうです。
温暖化による雪不足、スキー人口の減少などで経営が厳しくなったスキー場を民営化または廃止する方針を含む飯綱高原一帯の観光施設の再整備で、スキー場中心の「ウィンターシーズン」の観光戦略からキャンプ場や水辺を中心とした「グリーンシーズン」へ転換するというのが起点だったそうです。
そして、PPP的手法の合わせ技「DB+指定管理」一体型発注を選択した理由について書かれた長野市の公共施設マネジメントニュースレター(当時)が以下のリンクです。
まさにこれが官民間の「連携」
「DB+指定管理」実現の背景にあった意欲的な取組
今回、現地でお話を伺って行政と民間が「連携する」というのはまさにこういうことだな、ということを強く感じました。
担当した行政マン(*組織的であったかの全容は不明なのでマンとします)の「どうやったら実現できるのか」という着眼と思考と行動力があり、民間側にも効果的かつ効率的な施設整備と施設「運営」を実現するために持てる知恵を余すことなく投入する設計・施工・運営の三位一体の取り組みが常に行われていたそうです。
また、指定管理施設では「民間に任せたので詳細は分かりません」といった姿勢になりがちな行政も時に出現すると聞きますが、このプロジェクトではそんな状況に陥らないために、運営「後」のシーンを行政にも強く意識してもらうべく外装の部材選びや飲食のメニュー開発にも積極的に関与してもらうなど開発過程で「連携」機会を民間側から積極的に働きかけた動き方などとても良いプロセスによって実現したというお話も聞きました。
実現するために何ができるか。と言う発想で動いた行政
先のニュースレターにもあったように、スキー場経営不振による出血を早く止めないといけないという時間の制約がある中でPFI法に則ったPFIでは議会や庁内の合意形成に長い時間がかかる可能性があるという背景があり、現行の規制や条件を踏まえながら「実現するために何ができるのか、何が使えるのか」を徹底的に考えた結果が小規模な事業でも民間の活力を最大限に引き出すための「DB+指定管理」と言う手法の組み合わせだったといえます。
ルールに則った手順は無視して良いものではないですが(無視が罷り通ればそれは単なるアナーキー状態)、一方でルールや前例があるからできないと言っているばかりでは何も変わらないわけで、このプロジェクトの一つのポイントは行政マンのマインドセットのシフト、目的的な発想による行動があったという点を挙げておくべきだと思います。
また連携の「形」にも注目しました。今回のプロジェクトでは指定管理期間は10年間、また支払関係も土地代(底地は市有地)、建物代(DB方式による公共施設)の支払いはなく事業で得た利益をシェアするという契約になっているそうです。
つまり利害一致関係を利益のシェアという約束で表しつつ、一方で期待利益を拡大するために指定管理期間を10年と設定して民間の投資意欲を高めるという判断がされています。リスクとリターンの配分を意図した官民間の関係の作り方もこのプロジェクトでは注目点だと思いました。
DB+指定管理方式の利益を最大に活かした、運営事業者主導の民間チーム
今回のプロジェクトの民間側の特徴は、私なりの表現で言うと「運営事業者主導型の設計施工一括発注(DB)」にあると思います。
今回の指定管理事業者はホテル旅館再生などの実績があり、そこで働く人々にマルチタスクを要望して経営効率を高めるといった手法をとっています。
そのような運営サイドの要望を具体な形にする設計や施工が施されているというお話も注目しました。
例えば、例えば受付カウンターの建物の中の位置。レストランと売店の中間に受付カウンターを置くことで、もしどちらかが混雑した際に状況がどちらも見えるのですぐに応援に駆けつけることができるとか、厨房設備の配置も接客、調理、片付とマルチタスク型の動きに対応しやすくできるなど、配置一つで事業を運営をする上で要員要件(必要人員数の上下)までも変えてしまうと言う運営視点を活かした建物設計がされています。
あるいは寒冷地ならではの問題として暖房費用対策としてさらにはSDGs観点から地中熱を利用した熱交換で公衆トイレの暖房を賄う工夫や、賑わい施設(子供中心の遊び場)の一部分はあえて暖房をしないゾーンにする(元々遊び場なので)とか随所に「使われるシーン」の想定とそれに適した空間作りが施されています。
このような民間のコンソーシアム内部の取り組みを見聞するにつれ、長野市の当初の目論見でもあった「施設を建てた後の管理運営を見据えたよりよい設計・施工への期待」は十分実現できていたと思われます。
方式ではなく取り組みが再現されることを期待
こういう事例が共有されると「DB+指定管理一体方式」がコピーされることが想像されます(あるいは、事業規模や時間の制約によっては民間に設計施工運営を一体的に担うコンソーシアムを組成させた上でのDBO方式という選択もあるかもしれません)。
しかし、今回の要点は「どうやったら実現できるか」をとことん考えた行政マンと、「効果と効率を高めるためにできることは全てやる、諦めることは諦める」を徹底した民間事業者のチームワーク、さらにその両者の「連携」があったからこその結果ではないかと思うのです。
コピーすべき点を間違えないことがこうしたプロジェクトの継続には必要だと思います。
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