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PPP的関心【「民間主導のまちづくり」の実態は?主役である商工事業者の関与度が見えた調査】

「公民連携まちづくりは民間主導で」という考え方は、大学の講義でも受講生に伝えています。そんなことで、まちづくり活動は誰が先導するのか?ということについつい関心がいってしまいます。先日、調べ物をしていた際に偶然、日本商工会議所さんによる「民間主導のまちづくりによる実態調査」という調査(2022年3月発表)を見つけました。今回は調査報告書を読んで考えたことについて書いてみます。
*写真は2022年5月に視察で訪れた、「民間主導の公民連携」で生み出された豊かな公共空間(木伏緑地)の様子。

「民間主導のまちづくりに関する実態調査(2022年3月 日本商工会議所)」

本報告書は、各地商工会議所、および商店街等の地域のまちづくりに関わる事業者・担い手を対象に、空き地・空き店舗等の「低未利用不動産」の現状や利活用に向けた課題、およびアフターコロナを見据えたまちづくりの取り組み等について調査した結果をまとめたものです。

調査について(日本商工会議所HP記載)

調査実施自体は2021年の7月から8月に行われていますので、1年前の回答ということですが、全国の515か所の商工会議所と、 各地の商工会議所が選定したそれぞれの地域のまちづくりに関わる事業者・担い手」2,575事業者に対して行われたアンケート調査ということです。
主な調査内容は「まちづくり活動の現状」、「中心市街地の現状」、「低未利用不動産問題の状況と対策の現状」、「まちづくり における課題」です。

気になった回答をいくつか抜き出してみました。

「まちづくり」は商工事業者自身のためではないのだろうか?という素朴な疑問

注目した回答結果をいくつか抜き出してみます。

■商工会議所におけるまちづくり活動の状況(複数回答)
→「商工会議所が地域のまちづくり・ 中心市街地活性化に関する 協議会等に参画している」という回答割合は60%を超えています。全体として積極的とは言い切れない数値ですが、何らか「関与」はしていることは伺えます。

■各地域におけるまちづくり会社の設立状況
→上記のように「関与」はしているものの、この質問の回答選択肢にある「商工会議所が出資または職員派遣を行っている会社・団体がある」という回答は35%にとどまり(”とどまり”という表現が適切な気がしました…)、関与はしている(しようとしている)ものの、主体として動きを進める役割を担っているとは言い切れないことが考えられます。

■商工会議所の関与状況 ([中心市街地活性化計画認定実績ありとの回答があった地域]のうち)
→そもそも地元が中心市街地活性化基本計画の認定を受けている、これから認定を目指すという回答が25%で、その計画認定を受けている地域の「計画策定プロセスに商工会議所から委員等を派遣している、あるいは意見表明・情報交換等は実施している」という回答は91%でした。

以上のような回答から、商工会議所という民間企業団体の動き方は、自治体(官)に協力をするという取り組み方で事を為そうという方針であることは明らかな一方、行政の関与の有無にかかわらず自分達の地域の変化を自らが先導してゆこうという動き方にはなっていない、と見受けられました。

低利用不動産が「低利用のまま」なのは、以前の成功体験?

まちづくりは不動産事業でもある。これも講義の中で伝えている要点です。つまり、低下した不動産の「利用価値」を再び高め、利用価値の上昇を地価や地代に反映して地域の富(資産価値)を蓄積し、富の蓄積による資産効果によってお金の流れを拡大してゆくというプロセスの創造という意味です。

■低未利用不動産問題の状況
→「以前は問題であったが改善した」との回答は3%、「特段問題になっていない」が19%という回答に対して、「問題となっているが、状況に大きな変化はない 」「問題となっており、深刻化している」が78%と大半の地域において”問題”と認識されていることがわかります。

■低未利用不動産の利活用状況と課題の集計結果
→複数回答ながら、利活用したい(してほしい)との「希望がない」よりも何らか「希望がある」はあるが、個別事情、費用、利用にマッチした物件の提供といった「問題」があることがよくわかります。

調査結果報告より

■低未利用不動産の権利状況
→利活用が進まない背景として、「住宅・店舗が兼用」 「所有者が遠隔地」「所有者が不明・連絡困難」 「調整が困難(相続含む)」 など、ここでも最近の不動産の所有権に関わる問題(所有者不明土地の発生など)がリアルに反映されている様子がわかります。

■低未利用不動産の再開発の制約
→質問自体「再開発をすること」が前提となっている点は気になるが(それはさて置き)、「再利用までに莫大な調査費用や手数料が掛かる」「区画に問題がある」などが挙げられています。
ちなみに、こうした問題はすでに過去から各地で起こっている経験の中からリノベーションまちづくり=今あるストックを活かし、小費用で経済循環と循環からの付加価値を生み出し、(仮に将来的に再開発をするならば)付加価値の蓄積をした上で行うという発想が既に提示されています。
質問設計自体に批判的な見方はしませんが、既に行われている「他の手法」に目を向けることで、お金や権利調整で手間がかかるから無理、と止まってしまう思考停止状態を抜け出すことができるのではないかと思います。

■低未利用不動産の民間利用に貢献すべき主体
→この回答は、先に挙げた主体性問題を表している気がします。
回答順(複数回答)に「行政」83%、「まちづくり会社・団体」52% 、「民間不動産事業者」51%、「商店街」50%、「商工会議所」39%と続き、あくまで「まちづくり」が行政の仕事かのような意見が目立ちます。

まちづくりの定義から主体を考える

「まちづくり」という言葉はある意味あやしい言葉使いで、その「定義」は明確に定まっていないと言えます。
私の講義の中では、ヒト・モノ・カネ・ジョウホウの流れが太く早く流れる状態を地域に創り出すための場所造り・関係創りをするための取り組みだと話をしています(もちろん、それが全てではないとも思いますよ)。
その立場に立って考えると、「ヒト・モノ・カネ・ジョウホウの流れが太く早く流れる状態を地域に創り出す」とはすなわち民間事業者が商売を起こし成長させることそのものだと思うわけです。つまり、民間事業者の集まりである商工会議所にとってはまさに自分のことだと思うのです。
民間事業者として自社を含む地域事業者の成長はすなわち地域を豊かにすることであり、その際、行政はそのような地域を豊かにしてくれる民間の動きを応援することで税収を得て公共の福祉を実現させてゆく。そんな地域内の循環を生み出すことがまちづくりの一つの重要な側面だと思うのです。

今回のアンケート結果のように、自分達の役割は「行政にちゃんと伝える、意見を言う」ことで、「実際に考えて実行するのは行政であり行政に指定されたまちづくり団体」だよという回答は、全く「逆」だと思うのです。
とまぁ、そんなふうに私は考えますが、いかがでしょうか。

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