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小林稔侍のこと 『鉄道員(ぽっぽや)』 1999.06.14 矢部明洋

  『鉄道員(ぽっぽや)』は今年のワースト・ワンに選ばれるのではなかろうか。途中何度も席を立とうと思ったんだが、人気者・広末涼子をチェックしておく必要があると我慢した。だが、我慢の甲斐はなく、首吊りの足を引っ張るような出来だった。
 悪口を書き連ねても私が嫌われるだけなので多くは記さないが、非常に映画にしにくい原作であることは確かだ。この感傷しかない幽霊話が直木賞を受けたのは浅田次郎の芸の力に拠る。文章、小説だからできる類のテーマだし、映像向きではない。なのに何の戦略もなく正面突破で(=原作に忠実に)映画化に取り組み、玉砕してしまった。熱演が空回りする俳優たちが悲劇的ですらある。健さんも浮いてたし(でも、これは当人が悪い。主役とはいえ、この役柄でカッコつけちゃいかんよ!)。

 この作品で注目すべき点があるとすれば、小林稔侍の出世ぶりだろう。ついに東映三角マークの本編で、健さんの相手役にまで上り詰めた。大部屋俳優としてヤクザ映画のチンピラを演ってた頃から考えると、想像を絶するブレークぶりだ。
 『キャプテン・ウルトラ』のハック役だったのは、もう有名な話。その後は『新・仁義なき戦い~組長の首』の文太の弟分役が印象に残る。しかし、今のブレークにつながったのは何といっても“極道版あしながおじさん”『冬の華』である。倉本聡が脚本を書いたこの作品で彼は、主役の健さんの無口な元子分を演じた。無口と書いたが、セリフがないのである。  健さんが刑務所に入ってる間に彼は足を洗って板前になり、自分の店も構えたのだが、ラストのお決まりの殴り込みに彼はドスを一本抱えて同行するのであった。駆けつけるためにタクシーに乗り込むシーンのカッコ良さが封切当時、セリフなしという設定とあいまって映画ファンの間ではささやかながら話題になった。
 その後、NHKの朝の連続ドラマに出てお茶の間に顔を売り現在の活躍に至るのだが、最初に注目されたのは『冬の華』だと我々、東映マニアは考えている。同じ頃、出演した『狂い咲きサンダーロード』でのホモの右翼役も忘れがたい出来だったし、70年代末の小林稔侍はちょっと得体知れずで、危ない匂いがして、旬だった。
 今やNHK時代劇の主役はやったし、映画では今回の『鉄道員(ぽっぽや)』や『釣りバカ日誌』で準主役まで来た。念願の本編主役を演じる日が来れば初日に1800円払って見に行くゾ 稔侍!
 でも、『鉄道員(ぽっぽや)』の芝居はくさかったゾ!!

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