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日本おたく文化、ハリウッドを制す 『マトリックス』1999.09.15  矢部明洋

  かつて、米国メディアの東京特派員が「日本は大人が漫画に熱中する変な国だ」という内容の記事を本国で発表し、それを日本メディアが紹介して短絡的な漫画批判を展開したことがあった。
 あれからほぼ10年。ハリウッドがキアヌ・リーブスら人気俳優を起用して製作した映画『マトリックス』は、世界観といい、造型感覚といい、日本のSF漫画からの引用に満ち満ちている。
 特に、強く影響を及ぼしたのは士郎正宗作『攻殻機動隊』だとおぼしい。ネット世界をテーマにした点、後頭部に端子を挿入しネット世界にダイブする設定など、まんまである。
 評判の特殊撮影での人物の動きに至っては、テレビゲームの『バーチャファイター』である。
 つまり、SF物にあっては、作品の哲学ともいうべき設定から、映画の華であるアクションシーンに至るまで、この映画は、漫画・ゲームに代表される日本おたく文化の洗礼を受けていることは明らか。もっと端的に言えば、日本漫画の拡大再生産以外の何物でもなく、ラストのカタルシスも日本少年漫画の王道ともいえるドラマツルギーに則っている。
 個人的には、望月三起也の『ワイルド7』の時代から、いつか米国映画産業が、日本漫画に注目するであろう、とは思っていたが、ついにその時はやって来たようだ。
 さて監督のウォシャウスキー兄弟は、前作『バウンド』で世界中の映画ファンをしびれさせた逸材だ。しかし、その才能も、今回は引用した日本漫画の世界観の前にかすみがち。特殊効果を禁じ手にしたほうが、彼らの映画的才能は発揮されるはず。
 映画としては『マトリックス』より『バウンド』の方が、その語り口の点で数段魅力的だ。御一見あれ

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