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矢部明洋のお蔵出し 日記編 2000年7月

7月某日・再開します

  小渕首相が倒れ、業界が一挙に選挙モードに突入したおかげで4、5、6月と休んでました。お待たせしました。
(休んでた3カ月の間にも、我が家の凶妻は、朝食に前夜の残りの刺身とトーストという嫌がらせ以外の何物でもないメニューをテーブルに並べたり、弟が送ってきた泡盛の古酒1升瓶を、私が知らない間に飲み干してしまうなど狼藉の限りを尽くしていましたが、それを詳述できないのが無念であります)

 本日は久々に映画見物に行った。
 『マン・オン・ザ・ムーン』。
 ジム・キャリーが好きなので見に行った。実在のコメディアン伝記映画で、完成度は今一つではあるが、プロレスファン、お笑いマニアには、大変示唆に富む、おもしろい映画だった。今や全米を席巻しているWWF(プロレス団体)のエンターテイメント・プロレスの先駆となるライブショーを主人公はやっていた。それも南部の帝王、ジェリー・ローラー(当人が当人役で出演)相手に。観客を感情をヒートアップさせる、その芸風は、もうお笑いの範囲を超越しており、いやはや凄い芸人がいたもんだと勉強になりました。芸談の好きな人にはオススメ。
 


7月某日・無謀な母子

  市営プールが今月から営業を始めたので一家3人で出かける。
 みえぞうは全く水を恐れない。恐れないばかりか、子ども用ではなく競泳用の50㍍プールに独りで入ろうとする。背の立つ子どもプールでは、何やら首まで体を沈め、手をかいて歩きながら泳ぐ真似をする。それに輪をかけ無謀な凶妻は、滑り台からみえぞうを独りで滑らした。みえぞうは勢いがついて水面までダイブ。見ていた周囲のお父さんたちはびっくり。みえぞうも一瞬びっくりしたが、滑り終わって笑っていたので、お父さんたちは他人事ながらほっとした表情をしていた。
 無謀な母子に、私は恥ずかしかった。
  


7月某日・海水浴

  休みなのに、みえぞうが早起きするので、それならと萩へ。日本海で海水浴する。海開きはまだということで、海は海草がいっぱいであまりきれいではなかった。
 やはり、みえぞうは海も怖がらない。砂浜に立って、海の方を差し「お風呂はいるー」と叫び、海水が顔にかかると「からいー」とのたまっておられた。
 午後早目に撤収し、萩本陣(という旅館)の温泉に寄って帰る。程よく古びて快適な湯だった。
 


7月某日・みすヾ映画

  童謡詩人、金子みすヾの生涯を出身の長門市を舞台に映画化するということになり、スポンサーの紀伊国屋書店の関係者や映画会社のプロデューサーがやってきた。県内諸団体から協力を得たいということで相談に乗る。紀伊国屋書店の担当は、1年ほど前、中洲の飲み屋で一緒になった旧知の人物で、飲むとべろんべろんになる好漢である。県の方に話をつないでみたら、「カネをださなくていい名義後援なら、こっちとしてもウェルカムな話ですねー」ということで、1週間後に県庁で監督出席のうえ製作発表会見することになった。
 


7月某日・また海へ

  1週間前の海水浴に味をしめ、今度は瀬戸内に泳ぎに行った。
 前日に海開きしたばかりで、水も砂浜もきれいだった。どうも、みえぞうは海では昼寝をしない為、帰る頃は眠気で機嫌が悪くなって困る。
 


7月某日・宿直

  会社で宿直。眠りに就いたばかりの午前3時半ごろ、高速道路から大型トラックが転落したと電話で一報が入り、現場に行く。カラオケボックスの駐車場に車が横転してころがっていた。人通りの多い白昼か、カラオケボックスの建物にでも突入していればニュースだったが、ボツとなる。
 


7月某日・女帝来襲

  仕事から帰宅すると、義姉、義弟一家が来ていた。さすがの凶妻も、客があると家を掃除するので、きれいになって嬉しい。みんなで酒飲んで、飯食って、花火する。みえぞうは花火を初体験。おっかなびっくりで振り回していた。
 義弟の二女、ひなぞうは2歳ながら、漫画『はみだしっ子』の登場人物そのままの目鼻くっきりの顔立ちで、私としては将来はタカラヅカに入ってほしいと密かに願っている。はやくも、みえぞうはこの女王さまにやっつけられ、突っ伏して泣く日々であった。
 


7月某日・福岡へ

  凶妻の福岡の友人、アカシくんがやってる自主上映会に行く。会場は福岡市の図書館。上映プログラムは加藤泰特集で『男の顔は履歴書』『みな殺しの霊歌』。どっちも良かった。特に『みな殺しの霊歌』は傑作であった。いずれ別のコーナーで詳述することもあろう。それにしても加藤泰という演出家は観客をしびれさせる強烈な美学があって、たまらない。アカシくんの上映会は、いい作品をやってるのに1本1000円の低料金もあって台所が苦しいという。今回も入り口で切符切りながら、「もうダメ」と悲鳴をあげていたが、赤字に懲りずにやるんだろうな、また。福岡の日本映画マニアは幸せだね。
 せっかく福岡に来たので、もう一本見て帰ろうと、バスに乗って天神まで出ようとしたが、福岡ドームで「B,z」のコンサートがあり、周辺一帯大渋滞。車が全然動かない。西鉄の路線バスの運転手が「1時間20分遅れで走ってます」と悲鳴を上げていた。この界隈は結構高級なマンションが立ち並んでいるが、これじゃ高いカネだして住む値打ちはないな。完全に都市機能がパニックを起こしている。昔、福岡市内に住んでたころはいちいち腹を立てていたが、住民じゃなくなると、あきれるだけで余り腹も立たない。そんなもんかね。
 渋滞は歩いてやり過ごし、何とか映画館にたどり付いて見たのはイラン映画『太陽は、ぼくの瞳』。これも傑作やった。『赤い運動靴と金魚』の監督だが、前作より格段に上手くなり、予算も増えたみたいで立派な作品をモノにした。是非見てください、そして神について真摯に考えてみてください。
 


7月某日・事件

  いい映画を見た余韻が続く中、目が覚めた午前7時ころ、会社から電話がかかった。この時間帯に社からかかる電話というのは、まず不幸の電話と考えて間違い無い。
 この朝は
「市内の16歳が母親を金属バットで殴り殺したんで、人手が足りないので出てきてくださーい」
というものだった。
 やれやれ

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