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[日記]2020年9月28日(月)

 ふとInstagramを開くと、4ADの投稿が目に止まる。どうやらDeerhunterの「Halcyon Digest」が今日で発売から十年経ったようだ。

 十年前を朧げながら思い返す。あの時は、毎週のようにCDを購入していた。大学のある小さな町で生活しながら、ネットの情報や友人の話を元に、興味のあるCDを次から次へと購入していた時期である。知らないことが怖かったのかもしれない。とにかく何でも聴いて、体験へと変換したかったのであろう。次から次へと購入されたCDの中に、Halcyon Digestがあった。

 真っ黒な背景の中に、小さな人物が祈りを捧げているように見える。よく見ると、顔は大人のようであり女装しているようにも思える。性別も年齢も曖昧な人物は、斜め上を見上げている。そこに何があるかも分からない。すべてが曖昧なまま、目に飛び込んでくるイメージは、どこか不穏で妖艶なイメージさえも想起させる。そのままCDを再生すると、ジャケット通りの不穏な音像が浮かんでくる。その不穏な音像はSailingで静謐へと変わる。囁くようなボーカルは波に漂う一艘の船のように、ゆらゆらと揺れる。しかし、次のMemory Boyで静謐は崩れ、ポップネスが横溢する。駆け抜ける二分強は、まるで夢の中を楽隊が通り過ぎて行ったような映像が浮かぶ。当時はこのポップネスに強く惹かれていたことを思い出す。気持ちの高揚に身を任せていた。

 しかし、改めて聴いてみると、前半の不穏さが後半に向かうにつれて、徐々に狂気を帯びてくるように思う。Desire LinesのリズムはThe Velvet Undergroundのようであり、Basement Sceneで浮遊するボーカルに心酔する。Helicopterのメロディに感動し、最後のHe Would Have Laughed [For Jimmy Lee Lindsey Jr.]のリフのリフレインが耳に残る。そして、もう一度Earthquakeに恍惚とするのである。ここまで聴くと、何度でも繰り返したくなる衝動に囚われる。その衝動はDeerhunterの狂気に取り込まれることで喚起される。虜にならざるを得ないのである。

 なんとか狂気を振り払う。Halcyon Digestはこの先も聴き続けるであろう。一度聴いたら、何度でも繰り返さないと抜け出せない暗闇がこのアルバムにはある。

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