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[日記]2021年3月21日(日)

 進みゆくにつれて見えなくなることがあるとしたら、それは過去の出来事ではないかと思う。いずれ忘れられる過去が轍となって道程を描けば、標となって墓標へと続く。不意に訪れる事象を残すようにと思いつつも、幻となって立ち消えるのみか。

 吉祥寺と西荻窪を彷徨うように行きつ戻りつする。赴いた書店で本を購う度に、背負う重みが増えてゆく。背負うことを課しているのか、重みを増やすことが目的であるのか、将又テクストの蒙昧さに身を任せるのみか、目的地は遥か見えなくとも、充足のために行為をせざるを得ないのは幸せか否か。街の音を聞かないように音楽を聴き、言葉を聞かないように目を閉じる。自らの内部から生まれる言葉に耳を傾けて、実感を上塗りするように記憶を刷新するのである。

 ポケットティッシュを買わなくてはいけないことに気が付き、百円ショップにてポケットティッシュを入手する。封を開けて、塵紙とは言えない綺麗な紙の匂いを嗅ぐも、人の波に浚われて塵芥となった雑多な匂いに鼻を顰める。

 それでも赴いた古本屋で、保坂和志の文庫と小島信夫の文庫を購えたのは良かったと感じる。「充足」は時折首筋に絡まり、呼吸も絶え絶えの状態で良い夢を見せる。血が巡らない眼球で眼前の光景を肯定すると、幻の出来事が顕れて、其処にはない海を見せる。

 夕方自宅へ戻り、購った本を愛でながら更に言葉に執着する。

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