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[日記]2021年3月6日(土)

 紀伊國屋新宿本店を訪れる。平日に尖った神経を落ち着けるには、恰好の場所である。本を視界に捉えるだけでは派手な個性は必要がない。内部に渦巻く欲望に適切に素直になれば良い。虚ろにならざる目を持ち、気の赴くままに逍遥するだけでも気は漫ろに晴れてゆく。

 本を眺めながら、書店の意義を考える。ただ単に本を売る場所としての役目ではない。場所ではなく空間で捉えること。平面の場所ではなく、立体的な空間の中で人はどのような動きを起こすことができるのか。そして、その動きを助ける、或いは補うことのできるような空間が自分の求めている空間であった。その考えに沿うのであれば、本に浸ることのできる空間、本に浸ることは“物語”に浸ること。そればかりではなく、接続できる空間、人と人、人と本。物体だけではなく、観念さえも接続できてしまうような透明で且つ濃い空間。様々な言葉が往来する中を、往来するままに求め続ける。この問い掛けに明瞭な答えを出すことは困難を究める。それでも一向に掴むことのない答えを考え続けることが、現在の自分にとって正しいことかもしれない。

 気が付くと、『1984年に生まれて』(郝景芳著 中央公論新社)を手に取っている。物語ることの重厚さを求めている気分である。読み終わる時期は大分先ではあろうが、帰りしなの電車の中で数行拾い読みしてはまた一歩を踏み出すことができるのである。

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