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[日記]2021年3月22日(月)

 手繰り直すように言葉を渇望する真夜中があり、根源が不明な記憶を甦らせて客体としようとする。『腦病院へまゐります。』(若合春侑著 文春文庫)が幾許かの歳月を超えて、二度目に手元に届いた時に、不確かな記憶を省みることを試みる。邂逅は大学の時分であったか、所謂“情痴文学”の文脈から辿り着いたように思うも、捉え処のない問いばかりが増えてゆくのみである。右往左往する記憶に阻まれながらも、開いた頁には旧仮名遣いの文章が連なり、目を覆いたくなるような光景が文字で立ち上がる。この感触、或いは客体を眼前に置いた時に自分という主体がどれ程の距離を取るかという試論を自らの内部で形成するための目的、それらを引き寄せることが「手繰り直す」ことなのかもしれないと、淡い納得を覚える。

 対象との距離は、執着に結び付く。視線の先にどれ程潜ることができるのか、深さは翻って“閾”となり距離を測る始点は複数個所に及び、距離は伸縮可能となる。

 言語を捏ね繰り回して思考と位置付けようとしているのか、思考を捏ね繰り回して言語として表明しようとしているのか。曖昧な結末は払暁の白い光に消えてゆく。

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