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[日記]2020年4月25日(土)

 午前中に起きて洗濯機を回す。まだ三〇パーセントほどしか目覚めていない意識の中で、洗濯機を回している。ここまでくると、習慣を超えて、手癖と言って良い段階に来ていると思う。

 BREWBOOKSで注文した本を受け取る。『野中モモの「ZINE」小さなわたしのメディアを作る』(野中モモ著 晶文社)と『女であるだけで』(ソル・ケー・モオ著 国書刊行会)の二冊。『野中モモの「ZINE」小さなわたしのメディアを作る』はハタハタショボウ(@hata2books)さんにご紹介いただき、一瞬で買いたいと思った本。『女であるだけで』は六本木蔦屋書店で新刊の平台に並べてあってずっと気になっていた本。マヤ文学、フェミニズム、ラテンアメリカ、白く変形版のサイズ、不思議な装丁、なぜ彼女は夫を「殺した」のか、という帯の惹句、全てに惹かれてしまいずっと心に引っかかっていた本。部屋の電気の下で、様々な角度から眺め回し、本文をパラパラと読んでまずは満足する。後でグラシン紙をかけることを、次の楽しみとして取っておく。その後に内容に入るのである。ソル・ケー・モオという作家を後で調べてみようと思った。

 電気の傘を掃除する。1DKのこの部屋は、キッチンのスペースに電気が備え付けてある。その電気が、見事なまでの「傘」なのである。天井に埋め込まれているタイプではなく、天井から吊り下げられている電球を覆うように、直径五〇センチとほどの傘がある。いつか掃除をしようと思って何年だろうか。それほど手をつけていなかったので、家にいる時間が長いこの時期に意を決して掃除をすることにした。床に新聞紙を引き、埃が散らないようにゆっくりと傘を取り外す。案の定、地層のように埃が溜まっている。雑巾で埃を拭い、除菌シートで拭く。あっという間に綺麗になった。所要時間五分ほど。よくよく考えてみれば、それほど大仰なことでもない。ただ単に電気の傘を掃除するだけの行為である。それを何年も逡巡していたことを面白く感じてしまう。未知の行為にこれほどまでに逡巡を感じること、それは慎重に物事を捉え過ぎて機を逸したことが何回かあったかという問いにつながってしまう。考えることは良くても、考え込むことはよくない。「行為する」というアウトプットの重要さが身に沁みる。

 午後は天気も良かったので、散歩に出かける。カメラを片手に徒歩二〇分のフレッシュネスバーガーを目指す。今まで、通ったことのない道を意識して通る。同じ町でも、街並みがとても新鮮だ。一軒家やアパート、店舗がある種の秩序の中で乱立している。そして、それぞれに歴史がありそれぞれの人々の生活を覆い尽くしている。いわば人々は匿われた立場であり、そこに思いを馳せる自分は、人々の生活を監視する立場の人間であるように思えてくる。建築のミニチュアに人々を配置し好き勝手に動かす。まるでシルバニアファミリーかのごとく生活で遊ぶ妄想をする。ここまで考えたところで、さすがに我に返って健全な散歩を続行する。

 帰り際、駅前の書店とスーパーに寄る。書店を何周もする。見たい本、気になる本から見ていく。関連する本を確かめてみたくなる。関連する本から連想する本へ。実際に読んでみる。内容からさらに連想される本を見に行く。そのように考えると同じ売場を何度も往復してしまう。気が付くと一時間が経過していることはしばしばある。店員さんにも怪しまれている気がしてならない。今日はBREWBOOKSから本も届いたなと思い、購買意欲をぐっと堪えて帰る。それでも近いうちに購入することになるだろう本は、売場とともに記憶しておくことにする。

 スーパーにより、食料品を買い出し帰路に着く。夜は家族からオンライン電話がくるので、話をしながらつまむ食材を買う。最近はポテトサラダが圧倒的に多い。三月にBREWBOOKSで本屋スナックのイベントを行って以来、ポテトサラダにすっかりハマってしまっている。ブラックペッパーを大量に振りかけて食べるポテトサラダは、ビールにもウイスキーにも合って最高だ。恥ずかしながら、語彙を失ってしまうほどの美味しさである。

 夜、家族とオンライン電話で話す。他愛ないことがほとんどだ。普段の生活の中で他愛ないことを取り上げることはほとんどない。家族との会話はその他愛なさに価値があることに気づかせてくれる重要な時間である。ゴールデウィークは帰れそうにもない。勢いづいてウイスキーのロックを飲もうと思ったが、氷がくっついてグラスに入りきらない大きな塊になってしまっていたので、ビールで我慢する。

 行動的な一日だったように思う。BREWBOOKSで購入した二冊にグラシン紙をかけて、歯磨きをする。それほど眠気は感じていなかったので、クローゼットの中から岡崎京子の『ヘテロセクシャル』(角川書店)を引っ張り出して眠くなるまで読む。冒頭の「うまくいってる?」がとても良い。やっぱり岡崎京子はいいなという、酷く大雑把な感想を抱きながら眠りに落ちる。

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