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[日記]2021年3月5日(金)

 書肆 海と夕焼 実店舗開業のための模索の第二回目の記事を書き始める。思い返すと、忘れている出来事の方が多いように思う。例えば、小学生の頃に何をして遊んでいたのか、友人と交わした会話の内容、何を思って生活していたのか。もちろん、当時何某かを深く思考しているはずはないのであるが、不思議と印象にない。それでも本のことは覚えていた。三毛猫ホームズや暗夜行路、夏目漱石も読んだように思う。確か中学生の時分であったろうか、タイムカプセルの中に『彼岸過迄』(夏目漱石著 新潮文庫)を入れた記憶がある。人間模様など全く理解していなかった自分は何に感動を覚えたのであろうか。内向的な性格の須永に自己を投影していたのかもしれない。何処かで幼心に感じる劣等感は抱えていたと思う。運動が上手くできない、人と話せない、瑣末な劣等感が無邪気な心の隙間に入り込んでいた時に読んだ本である。今や甘い幻影のように仄かに揺れるだけの思い出も、過去の追想として既に昇華できている。いつか埋めたタイムカプセルの行方だけが分からない。掘り返した記憶も全くないのである。それでもあの場所に『彼岸過迄』が埋まっているのは、良い事象であるかもしれない。情念は土の中で、生きてゆく糧になれば良いのである。

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