Sexy Zone楽曲における「夜明け」について

「夜明けの風に吹かれて どこまでも走り抜けた」で始まるのは、Sexy Zoneの代表曲の一つ「RUN」です。

途切れないで 途切れないでよ
このまま夜が明けていくまで
太陽はきっと きっと この闇を照らすはずさ
「RUN」作詞:渡辺拓也

この部分からもわかるように闇夜から夜明けに向かっていく疾走感があります。

この夜明けを待ち焦がれるような感覚を覚えるのが「RUN」の次にリリースされたシングルである「NOT FOUND」。メンバーの菊池風磨さんの書いたラップ詞に出てくる「彼は誰時」という言葉は、人の顔が判別できないような時間帯、すなわち夜明けを意味します。メンバーの松島聡さんが復帰して初めてのシングル曲で「彼は誰時に告ぐ 『おかえり』を」と歌い、「聞け 我らが轟かすname」と宣戦布告する。こんなにもギラギラした夜明けがあるでしょうか。

「RUN」と「NOT FOUND」からは、Sexy Zoneは夜明けを求めて走るグループだという印象を受けます。

他のジャニーズのグループ同様に、全曲自分たちで作詞しているわけでもずっと同じ作詞家がついているわけでもありません。そのため曲の歌詞を見比べてどうということにあまり意味はない気もします。

ただ、ほとんどはSexy Zoneが歌ってしっくりくる歌詞を書いてもらっているわけで、都度の歌詞からSexy Zoneが背負うイメージやSexy Zoneチームが打ち出したいものを見ることはできるでしょう。

歌詞に見る「夜明けを目指す姿」

歌詞を見てみると、そもそもデビュー曲から夜明けの話をしています。

太陽が東に昇る時 ほら地球もまわる 僕ら乗せながら
Sexy時代を作り出す 新しいAgeへ
ここから始まるSexy Zone
「Sexy Zone」作詞:Satomi

太陽が東に昇る夜明けを迎えてSexy時代、すなわちSexy Zoneの時代を作り出すわけですね。

のちに5周年のときに自分たちで作詞した「STAGE」では「回すんだろ? この手で この地球(ほし)を」「回すんだよ! この手で この地球(ほし)を」と歌っています。地球を回すこと、つまり時間を進めて朝を迎えることがSexy Zoneの時代が来ることの比喩になっているわけです。
余談ですが、情報解禁が相次ぐ日に「地球回ってるな~」というツイートを見かけるとこういう表現ができるのっていいなあと思います。

一方、デビュー曲のカップリング「With you」(作詞:ケリー)の歌い出しは「夢から押し戻されて 開いたドアからのぞく 曖昧な 景色 朝が来た」なのですでに朝が来ています。ただ、ここでいう「朝」はおそらく晴れやかで確かなものではない。夢から押し戻される。そして曖昧な朝が来る。ふわふわした夢ではなく現実として朝が来て、その先に広がる曖昧な景色を目の前にした……そんな瞬間を歌っているように聞こえます。

デビュー前にも歌っていた曲らしいので本質的に歌われているものはSexy Zoneのデビューというよりは何かしらの「朝」をいざ迎えた瞬間の不安感なのでしょう。しかしこの歌は不安を抱えながら若くしてデビューし、それでも踏ん張ってきた彼らの姿に重なります。

その後の楽曲で歌われた夜明けや朝は、デビューよりも先、それこそSexy Zoneの時代が来ることや一人の人間として夜が明けたと思える瞬間を指しているように思います。

それでも夜は明けるけれど
君にとってはツラいんだろうな
(…)
明日をちょっと待って そう胸を張って
このままゆっくり歩こう
「ぎゅっと」作詞:宮田航輔(nicoten)・菊池風磨
もう少し ほらあと少しで 一筋の光
夜は明けて空は晴れる
探していた"どこか"はそうだよ 心開いた未来さ
「いつまでもいつまでも」作詞:ケリー

誰かがもたらしてくれた朝ではなく、自分たち自身で夜が明けたと感じる瞬間を求めて今日を生きる。Sexy Zoneの曲を聞くとそんな姿が浮かんできます。

夜明けに向けてメラメラと走る歌だけでなく、「ゆっくり歩こう」と歌ってくれる「ぎゅっと」や、「Blessed」のように不安を抱えつつも自分のペースで進むことを肯定してくれるような歌もあります。

祈るより言葉にして確かめた
Keep growing everyday
このまま朝迎えてもいいよ
世界は僕らを待ってはいないだろう
それなら少しだけ眠らずにいようか
「Blessed」作詞:Kai Takahashi(LUCKY TAPES)

また、今いる場所を夜や暗闇だと感じることを否定しません。夜や暗闇のような時間にも意味があるのだと、その先に光があるのだと教えてくれます。

いつの間にかbreaking out
塞ぎこまないで 行けるさ
いっそ 暗い迂回 問題はない
It's so 深い愛 wanna make me bright
「make me bright」作詞:iri
何度も僕らは光り輝くそのたび 夜は教えてくれる
「暗闇こそ自分のこと見つけやすいんだよ」と
「HIKARI」作詞:タナカヒロキ(LEGO BIG MORL)

3月19日のラジオ「VICTORY ROADS」で勝利くんは「歩み方として光だけじゃない」「こういうことがあっても光になれるよってことを伝えたいグループ」と話していました。特にここ最近の楽曲からはこの印象を感じることが多々あります。

走りながら、歩きながら、時に立ち止まりながら。今いる場所を肯定しつつ夜明けに向かう姿は、聞き手にも前を向く力をくれるのです。

アルバム『ザ・ハイライト』における夜明け

さて、そんな風に夜明けを待ちわびるSexy Zone楽曲たちですが、2022年のアルバム『ザ・ハイライト』では少し趣が変わります。

夜の逢瀬を歌ったであろう「Desideria」(作詞:栗原暁(Jazzin'park))では「夜明けはない」ですし、華やかな夏の夜が思い浮かぶ「SUMMER FEVER」(作詞:Kanata Okajima)では「当分は帰らない」「キミの名のcocktailで 終わらない夢を見たい」「当分は帰さない」と歌う。夜を楽しむ大人な雰囲気を感じます。

ラブソングの「Story」(作詞:youth case)では「真夏の夜のDream’in 覚めないで永遠に」ときます。「Story」が永遠の愛なのかひと夏の恋なのかは議論が分かれるところですが「この季節の魔法に 今宵だけの魔法に 掛けられて」で別れの気配を感じる派です。いつか明けてしまう夜が永遠であることを願っているように聞こえます。

一方、夏の夜の逃避行を歌った「Summer Ride」には、夜が明けることに対するゆるやかな諦念があります。

思い出は 闇の中で光る星さ
心に刻み込めば 夜明けはすぐそこだよ
(…)
君が好きさ
どこまで行こうとも忘れたりはしないからね
愛してる 今もまだ そんな季節
「Summer Ride」作詞:butaji・STUTS

夜が明けたら君と僕の真夜中の逃避行は終わりを迎えてしまうというのに、僕は夜明けが来ることを受け入れている。受け入れる一方でこの夜が大切でたまらないし君を忘れることはないし今も愛している。そんな印象です。夜明けを待ち望むこととも、夜が続くことを願うこととも異なる、なんともいえない曖昧さがあります。

アルバムの曲順でこの曲に続く「Dream」(作詞:iri)も同様です。「忘れたくないよ」「君と僕にしかないこの野暮なやりとりも 夢みたいに綺麗に消えてOk?」と歌いながらも、「それじゃさよなら 僕らのたわいない日々よ」と見送っています。

このように『ザ・ハイライト』は希望としての夜明けを追い求めるような過去の楽曲とは異なる印象のあるアルバムでした。この夜が続くことを願ったり、夜明けというある種の切り替わりを受け入れつつ今この瞬間を愛おしく思ったり。そんな変化を感じる1枚です。

2023年の今振り返ると、この変化はマリウス葉さん……マリちゃんの卒業がもたらしたものの一つなのかなあと思います。

『ザ・ハイライト』に関連した雑誌のインタビューで、消えたり形を変えたりする人間関係を長く保つために心掛けていることを聞かれたときに菊池さんはこう答えていました。

「どんなことも『永遠に続く』なんて思わないこと、当たり前だと思わないことが大切なのかもしれないですね」
「MG」No.11 2022年5月23日発行

「今の関係じゃなくなりますね、さようなら」ではなく「形は変わるけど関係性は続くよね」と思えるほうが、たしかにその人との関係性自体は長続きします。

実際、卒業した後のファンとマリちゃんの関係は少し形を変えて続いているように思います。芸能人という立場ではないもののInstagramで見せてくれる日常や日々の関心に関する発信を介して、今も気づきや元気をもらっています。もちろん4人とマリちゃんについてもそう。4人からラジオや雑誌で話を聞きたりマリちゃんがCDやライブを楽しみにしていると話したり。これまでの年月と地続きで今があるのだと感じます。

思い描いてきた夜明けから形が変わったとしても、その変化を受け入れながら朝を待つ。今のSexy Zoneはそういう考え方を教えてくれます。

シングル「Trust Me, Trust You.」における夜明け

『ザ・ハイライト』後のシングル「Trust Me, Trust You.」には、偶然なのか、カップリングを含めて夜明けや明日、光を待つような4曲が揃っています。

暗闇の向こう側に I see the 未来
最後にはきっとそこに美しき世界が
僕らを待ってる
「Trust Me, Trust You.」作詞:EIGO(ONEly Inc.)・Dai Hirai
あの空の先で 新しい朝が 僕らを呼んでる
「Sleepless」作詞:EMI K. Lynn
今日も明日もその笑顔守りたい 無重力LOVE
この世界にたった一つ
かけひきのない愛を交わそう
「惑星」作詞:金井政人(BIGMAMA)・MiNE
Shine bright even through the darkness
I will see you again
「See you again」作詞:JUN

うち3曲はドラマのタイアップなどの都合もあると思いますが、変わることとの向き合い方を知ったうえで、また夜明けや光に向かって歩いていくんだなあと思うなどします。

作詞家の方々がどこまで何を汲んで書いているのか、Sexy ZoneやSexy Zoneチームが何を考えて書いてもらっているのか。分かりきることはないので受け取りたいものを受け取りたいように歌詞から受け取っているにすぎません。

ただ好き勝手歌詞を受け止めたいと思っても、あまりにもSexy Zoneの言動がそれと異なっていたらそうは思えないでしょう。前向きに受け止め、思いを馳せられるのはSexy Zoneが歌うからです。彼らの行動や歴史が裏打ちしているから響く、彼らが歌うから響くというのは確かにあります。

Sexy Zoneの新しい朝を待って

そんなSexy Zoneから、6月7日に新しいアルバムのリリースが発表されました。タイトルは『Chapter Ⅱ』

メンバー全員で話し合って決まったというタイトルには“Sexy Zone第二章“という意味も込められているという。
https://natalie.mu/music/news/519952

第2章に進んでいくと自ら宣言してこの先に歩いていくんだなあと思いました。2022年12月の東京ドームのオープニングで、マスコットキャラクターのセクベアもとい声の主・マリちゃんから「次のSTAGEの開幕だ!」と聞いたことを思い出します。

ただ、第2章の前に第1章があったことも忘れない人たちだと思います。松島聡さんは「日経エンタテインメント!」2023年5月号で「僕の意識の中ではこれからも『5人組』。だって5人で進んできた上での今だから」と語っていました。

5月3日リリースのシングル「Cream」には、5人で歌った「timeless」の音源や、5人で歌い踊った東京ドームでの無観客ライブ映像が収録されます。5人だったことが気持ちとしてもモノとしてもちゃんと残る。こんなにも嬉しいことはありません。

「これからのSexy Zoneを好きになってもらうのが僕らSexy Zoneというグループに対する、向き合える中での誠意だと思うので」。3月のラジオで風磨くんはそう語っていました。ぜひともそう思わせてもらいたい。

これまで積み重ねてきた日々の先に広がる、5人の新しい朝が楽しみです。