精索静脈瘤手術記録②
事前にいろいろとネットで調べたが、男性不妊も様々あれど、精索静脈瘤という病変の検査と治療が一般的なようだった。精索静脈瘤以外にも男性不妊の原因はあるようだけど、根本的な治療ができる原因は精索静脈瘤くらいだという情報もあった。
精索静脈瘤があると睾丸から大静脈や腎臓へ戻っていく血液が滞留したり逆流したりして、その結果睾丸が温められてしまうらしい。精子は高温に弱いので、睾丸は通常の場合、体温より少し低い温度を維持するようにできているようだが、精索静脈瘤があると睾丸が温められてしまい、精子がダメージを受けるのだとか。精子がダメージを受けると、精液検査の結果も私の結果のように元気な精子の割合が低くなるようで、私の結果は精索静脈瘤を疑っても差し支えないだろうと自分で勝手に診断を下した。
受診したのは男性不妊と精索静脈瘤の治療で有名だという病院。さすがにこの病院もコロナ対策で完全予約制。予約時間の5分前にインターホンを鳴らすと、予約時間ちょうどに来てほしいと言われたほどの徹底ぶり。しかし、病院に入ってみるとそれも納得。院内は完全に貸し切り状態で、他の患者さんは待合室にも皆無だった。
消毒をしてすぐに診察室に呼ばれ、診察が始まった。
今までの病院での結果を持参し、説明する。あと、男性が通院できなかったので、ということも伝えると先生は「なるほど」と私の気持ちを察したようだった。
やはりまず疑うべきは精索静脈瘤ということで、さっそく検査が始まった。パンツを脱いで椅子に浅く座る。ちょうどタマタマがぶらぶらするような感じ座る。そして先生が睾丸を触診しながら、見慣れぬ器具と睾丸を見比べている。その見慣れぬ器具には大きさの違う黄色い楕円体の物体がたくさんついていて、その一つ一つにその大きさを示す数字が刻印されていた。どうやら睾丸の大きさを測る器具のようで、私の睾丸とその物体を見比べ、その睾丸の大きさをメモに取っていた。
その後、よく胎児のエコー検査などのシーンで見るような、ジェルを塗り付けた器具を睾丸あたりに押し当てられると、画面に睾丸周辺らしい白黒の映像が映し出された。それを見ながら先生は、画面に映されている何らかの物体のサイズを測ったり、その映像を見ながら腹に力を入れてみてくれと指示を出したりされていた。
そんな検査も10分ほどで終わった。股間に残ったジェルを渡されたティッシュでふき取るように言われたが、これがまたなかなかふき取りにくく、もういいやと多少のジェルが残るのを諦めてパンツをはいた。やはり完全にふき取り切れてなかったようで、少し嫌な感触がパンツの中に残った。
検査結果はすぐに聞くことができた。左の睾丸はグレード2の精索静脈瘤と診断され、右の睾丸はグレード0か1とのこと。これは事前に調べていたので知っていたことだが、人体の構造上、精索静脈瘤は左の睾丸に見受けられることが多いようで、その通りの結果となった。
グレード2となると手術を勧めるレベルだということで、病気や手術の説明も同時に受ける。精索静脈瘤は日本人男性の15%が持っている、特に珍しくない病変であること、手術で精液の状態の改善は期待できる(もちろん絶対ではないが)ことや、手術しなくても睾丸痛などがない限りは自覚症状はないし、死ぬような病気でもないことなど。ただ、これから子供を作ることを考えるのであれば、自然妊娠を望むにしろ、人工授精などを試みるにしろ、精子の状態は改善しておいたほうが有利だということだった。
手術は、基本的には静脈瘤を取るのではなく、逆流を起こしている悪い静脈を縛ってしまうというもの。また、その手術の方法もいくつかあり……
「全身麻酔が必要だけど保険適用でできる手術(顕微鏡下高位結紮術)」
「局所麻酔で日帰り手術が可能だけど、最低限の動脈や静脈、リンパ管、神経などを残して、残りはまとめて縛ってしまうような手術(顕微鏡下低位結紮術)」
「局所麻酔で日帰り手術が可能な上に丁寧に悪い血管だけをより分けて縛るけど、保険適用外で高額な手術(顕微鏡下低位結紮術・ナガオメソッド)」
これらから選べるということだった。ナガオメソッドについては私が診察を受けた病院の先生が開発したやり方らしく、その先生の名前がついていた。気になる方はネットで検索すればすぐにヒットすると思う。
費用の問題さえクリアすれば一番丁寧な手術であるナガオメソッドが一番よさそうであり、この説明を受けた時点で私の心はほぼ100%この手術を受けようと決まっていたけど、さすがに保険適用外で数十万円する手術である。この日は一度帰宅して、妻の合意を取り付けようと思い、手術の申し込みはせずに病院を後にした。
精索静脈瘤が見つかったことは少々ショックなことではあった。精索静脈瘤があるから精子の状態が良くなかった、とはまだ言い切れないが、自分の精子の状態が悪い結果をさらに裏付けするような結果になったことも事実だから。しかしそれ以上に、精子の状態が良くないことの改善ポイントが見つかったことは嬉しいことだった。もしこれで、精索静脈瘤がなかったのに精子の状態が悪いままだったら、ある意味絶望していたかもしれない。病変が見つかってがっかりする気持ちが2割くらいで、治療の希望が見つかってホッとする気持ちが8割くらいだった。
帰宅して妻に説明。妻も「自分に異常があったらもっと金がかかるはずだから、気にせず治療しろ」と言ってくれた。念のため、看護師をやっている母にも相談したが「迷わずさっさと手術してしまえ」という返答だった。
翌日、さっそくメールで手術を申し込んだ。運よく3週間後の日程が空いていたのでそこに滑り込んだ。妻の合意も取り付けたので、手術に対しての不安は全くなかった。
……いや、不安は一つだけあった。精索静脈瘤を治療すると、睾丸・精巣の機能が回復する。それは精子を作る機能だけではなく、男性ホルモンの分泌異常なども改善する可能性があるらしい。
男性ホルモンがたくさん分泌されるようになって、性欲が増して絶倫になるのはいいとしても、髪の毛が薄くなったりしないかな……。
唯一の不安である。
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