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めくるめく季節の淡夢

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2023年月1連載小説。 BOOTH、文学フリマ京都7にて販売した小説カレンダーに書かれた短文を元に書きました。月が落ちてきた世界で、唯一の光だった彼女を探す少年の話。
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#6月

【小説】雨音に交じる悲歌

前話  雨の降る音を聞いていた。地面にできた水たまりを叩くぽつぽつという音は可愛らしく、揺れる水面に映った僕の顔は歪んでいたけれど目が離せなかった。夢の故郷にあった湖を思い出す。  雨の降った日は湖に行かなかった。ここでは傘が存在していたけれど、向こうには傘自体が無かったから。  そもそも雨の日に外に出る習慣がなく、雨の日は家の中で窓の外を眺めて過ごしてばかりだった。カナタの家が真隣にあれば抜け出して遊びに行くこともできたのに、田舎の村は一軒一軒が遠い。  そんな日、