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めくるめく季節の淡夢

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2023年月1連載小説。 BOOTH、文学フリマ京都7にて販売した小説カレンダーに書かれた短文を元に書きました。月が落ちてきた世界で、唯一の光だった彼女を探す少年の話。
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#8月

【小説】海にいた幼気な遺体と共にいた

前話  降り続いた雨は、紫陽花の里を出る頃には止んでいた。モノクロに落ちる雨はいつもと変わらないように思えたけれど、葉を叩く音はいつもより重く聞こえた気がする。  動かなくなったテレビを直すように、色を失ったものを叩いても戻ってきたりはしないのに。そんなことを思いながら去った紫陽花の里は、皚々たる街と同じく白月症にかかっている。  色盲の彼女が渡してくれた傘は、使わずに畳んだまま握っていた。彼女の家を離れてから気づいた、この傘は新品だ。タグは取られているが、使われた形跡は