【小説】白の街に浮かぶ足跡を辿る
前話
海を離れてしばらくが経った。鼻の奥に残っていた潮の匂いは消え、視界を覆う緑が肌に触れて痛い。ちくちくと肌を刺す枝を何度も折りながら、先を進んでいく。
月の落下で更地になった街を抜ければ、切り取られた森が立ちふさがった。まるで月が手でそこだけ削り取ってしまったみたいに、弧を描いた森の縁が絵画のように現実味のないものに見えた。
僕は、自分の街を出た。もしかしたら彼女がいるかもしれない場所を目指して、手当たり次第に行くしかなかった。海も、森も、街も、全て、もう探す