環境法の特徴3/行政法規の仕組みを読み解く訓練ができる

【事例3】ちゅう房や入浴施設を設置しようとするホテル事業者は,水質汚濁防止法上どのような手続を行わなければならないか。また,届出を受けて行政はどのような対応するのかについて説明してください。

水質汚濁防止法/事前的対応

環境法を学習すると行政法規の仕組みを丁寧に学ぶことになります。つまり,環境法を丁寧に勉強することにより,行政法の個別法解釈がほぼ同時に仕上げられるという関係にあると言ってもよいでしょう。

例えば、今回の事例についていえば,水質汚濁防止法を素材に,以下のようなことを学ぶことができます。なお,以下の文章の法令名は,いずれも水質汚濁防止法である。

水質汚濁防止法は,事業者がちゅう房施設,入浴施設などの水質汚濁防止法の規制対象となる「特定施設」(2条)を設置しようとする場合,当該施設に関する情報の提供を,届出するよう義務付けています(5条)。都道府県知事は,提出された情報に基づき,当該施設からの排出水が排水基準[排水基準については12条1項参照]を遵守できるかについて審査します。もし,基準遵守ができないと判断すれば,設置計画を変更・廃止するように命令を出すことになります(8条)。

この変更命令に関しては,届出があった日から60日以内に出さなければなりません。一方,この期間内は,届出を行なった事業者は,特定施設を設置することはできません(9条)。都道府県知事が何の命令も出さずに60日が経過すれば,事業者は,61日目より特定施設の設置作業を行うことができます。

このように,水質汚濁防止法のもとでの特定施設設置届出制は,

「届出+実施制限+計画変更命令」

によってできあがっているといえます(北村喜宣『環境法』(有斐閣ストゥディア145頁)。

このように,環境法の学習を通して,水質汚濁防止法という個別の法律を丁寧に読み解いていくことになりますので,行政法の個別法を読み解く基礎を身につけることができます。

なお,上記ストゥディアは,環境法を勉強してみようかな,という方にオススメの1冊となっています[過去に近畿大学総合社会学部で非常勤講師をしていた際にも指定教材として活用させていただきました]。基本7科目の基礎をインプットした方であれば,スムーズに読めると思います。

次回は,水質汚濁防止法の事後的規制について検討します。


【参照条文】

(定義)
第二条…… 
2 この法律において「特定施設」とは、次の各号のいずれかの要件を備える汚水又は廃液を排出する施設で政令で定めるものをいう。
一 カドミウムその他の人の健康に係る被害を生ずるおそれがある物質として政令で定める物質(以下「有害物質」という。)を含むこと。
二 化学的酸素要求量その他の水の汚染状態(熱によるものを含み、前号に規定する物質によるものを除く。)を示す項目として政令で定める項目に関し、生活環境に係る被害を生ずるおそれがある程度のものであること。

(特定施設等の設置の届出)
第五条 工場又は事業場から公共用水域に水を排出する者は、特定施設を設置しようとするときは、環境省令で定めるところにより、次の事項(特定施設が有害物質使用特定施設に該当しない場合又は次項の規定に該当する場合にあつては、第五号を除く。)を都道府県知事に届け出なければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名
二 工場又は事業場の名称及び所在地
三 特定施設の種類
四 特定施設の構造
五 特定施設の設備
六 特定施設の使用の方法
七 汚水等の処理の方法
八 排出水の汚染状態及び量(指定地域内の工場又は事業場に係る場合にあつては、排水系統別の汚染状態及び量を含む。)
九 その他環境省令で定める事項

(計画変更命令等)
第八条 都道府県知事は、第五条第一項若しくは第二項の規定による届出又は前条の規定による届出(第五条第一項第四号若しくは第六号から第九号までに掲げる事項又は同条第二項第四号から第八号までに掲げる事項の変更に係るものに限る。)があつた場合において、排出水の汚染状態が当該特定事業場の排水口(排出水を排出する場所をいう。以下同じ。)においてその排出水に係る排水基準(第三条第一項の排水基準(同条第三項の規定により排水基準が定められた場合にあつては、その排水基準を含む。)をいう。以下単に「排水基準」という。)に適合しないと認めるとき、又は特定地下浸透水が有害物質を含むものとして環境省令で定める要件に該当すると認めるときは、その届出を受理した日から六十日以内に限り、その届出をした者に対し、その届出に係る特定施設の構造若しくは使用の方法若しくは汚水等の処理の方法に関する計画の変更(前条の規定による届出に係る計画の廃止を含む。)又は第五条第一項若しくは第二項の規定による届出に係る特定施設の設置に関する計画の廃止を命ずることができる。
2 都道府県知事は、第五条の規定による届出があつた場合(同条第二項の規定による届出があつた場合を除く。)又は前条の規定による届出(第五条第一項第四号から第九号までに掲げる事項又は同条第三項第三号から第六号までに掲げる事項の変更に係るものに限る。)があつた場合において、その届出に係る有害物質使用特定施設又は有害物質貯蔵指定施設が第十二条の四の環境省令で定める基準に適合しないと認めるときは、その届出を受理した日から六十日以内に限り、その届出をした者に対し、その届出に係る有害物質使用特定施設若しくは有害物質貯蔵指定施設の構造、設備若しくは使用の方法に関する計画の変更(前条の規定による届出に係る計画の廃止を含む。)又は第五条第一項若しくは第三項の規定による届出に係る有害物質使用特定施設若しくは有害物質貯蔵指定施設の設置に関する計画の廃止を命ずることができる。
(実施の制限)
第九条 第五条の規定による届出をした者又は第七条の規定による届出をした者は、その届出が受理された日から六十日を経過した後でなければ、それぞれ、その届出に係る特定施設若しくは有害物質貯蔵指定施設を設置し、又はその届出に係る特定施設若しくは有害物質貯蔵指定施設の構造、設備若しくは使用の方法若しくは汚水等の処理の方法の変更をしてはならない。
2 都道府県知事は、第五条又は第七条の規定による届出に係る事項の内容が相当であると認めるときは、前項に規定する期間を短縮することができる。

(排出水の排出の制限)
第十二条 排出水を排出する者は、その汚染状態が当該特定事業場の排水口において排水基準に適合しない排出水を排出してはならない。
2……

過去記事一覧

環境法の特徴1

環境法の特徴2

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