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第5話 東大英語の脳内大公開

セクション1 東大入試 第4問(A)

今回は相当に難しい内容なので、ちゃんと理解するなら高い精読力が必要になります。いかなる予備校の模試でも偏差値70あった人は挑戦してみて下さい。

YouTube等でご活躍されているAtsuさんの公式Webページで、リーディング中の頭の中を紹介するチャレンジングな記事が目に止まりました。今回はその記事を読んだ時の、僕の頭の中を解説したいと思います。

2017年の東大から一問。太字部分(a)から(e)には1つだけ誤りがあるので指摘して下さい。以下の英文はAtsuさんのWebページからそのまま転載しました

The term” documentary “(a)emerged awkwardly out of early practice. When entrepreneurs in the late nineteenth century first began to record moving pictures of real life events, (b)some called what they were making “documentary”. The term didn’t stabilize for decades, however.

Other people called there films “educationals,”” actualities,” ”interest films,” (c)or perhaps referred to their subject matter-“travel films,” for example.

John Grierson, a Scot, decided to use this new form in the service of the British government and invested the term “documentary” (d)by applying to a work of the great American filmmaker Robert Flaherty. He defined documentary as the “artistic representation of actuality”-a definition that has proven durably (e)because it is so very flexible.

#005-01 トライ5回まで

せっかちな人は本文を2回。じっくり取り組みたい人は5回通して読んでみましょう。ただし絶対にそれ以上は読まないで下さい。理由は<セクション2>で明かします。

セクション2 じっくり検討すると

再掲します。

The term” documentary “(a)emerged awkwardly out of early practice. When entrepreneurs in the late nineteenth century first began to record moving pictures of real life events, (b)some called what they were making “documentary”. The term didn’t stabilize for decades, however.

Other people called there films “educationals,”” actualities,” ”interest films,” (c)or perhaps referred to their subject matter-“travel films,” for example.

John Grierson, a Scot, decided to use this new form in the service of the British government and invested the term “documentary” (d)by applying to a work of the great American filmmaker Robert Flaherty. He defined documentary as the “artistic representation of actuality”-a definition that has proven durably (e)because it is so very flexible.

ヒント:答えは1つに絞れません。正解候補の2つの間で悩むはずです。そのつもりで考えてみて下さい。ひとしきり考え終わった方にはもう1つ質問します。

では改めて質問です。実は本文には2箇所の写し間違えがありました。下線部以外の部分に2箇所ミスがあるので指摘して下さい。theirとthereのスペルミスがありますがそちらは軽微なためカウントせず、もっと根本的なミスが隠れています。それが済んだら本来の設問に戻って(a)-(e)から1つ選んで下さい。

<セクション3>で答えを言います。

セクション3 答え合わせ

正しい本文と質問の答えです。赤本でもダブルチェックしました。太字部分で誤りがあるのは(d)です。

The term” documentary “(a)emerged awkwardly out of early practice. When entrepreneurs in the late nineteenth century first began to record moving pictures of real-life events, (b)some called what they were making “documentary”. The term didn’t stabilize for decades, however.

Other people called their films “educationals,”” actualities,” ”interest films,” (c)or perhaps referred to their subject matter-“travel films,” for example.

John Grierson, a Scot, decided to use this new form in the service of the British government and [*invested/ invented] the term “documentary” (d)[*by applying to a work/ by applying it to a work] of the great American filmmaker Robert Flaherty. He defined documentary as the “artistic representation of actuality”-a definition that has proven [*durably/ durable probably] (e)because it is so very flexible.

太字部分(d)はby applying it to a workに直すことが正解です。本来の問題についての解説は市販本に任せます。

さあいよいよです。Atsuさんのページを読んでいて僕が違和感を感じた頭の中を説明したいと思います。

考慮すべき箇所の骨子を2カ所抜き出しました。本質は残しながら短く書き換えてます。

(A) JS invested the term ”documentary” by applying to a work of RF.
(B) A definition has proven durably because it is so very flexible.

(A)文も(B)文も間違いを多分に含んでいます。<セクション4>で僕の思考のプロセスを語ります。

セクション4 検討箇所①

それでは何がおかしいのか。

(A) JS invested the term ”documentary” by applying to a work of RF.

文法的には不適切な部分は無いですが、内容が意味をなしていません。

まず動詞investはinvest money in a projectのように使います。moneyに相当する部分にthe term “documentary”が入っています。更にapply to の部分ですがapply to a collegeやapply to a companyのように使います。つまり組織への応募です。ちなみに皆さんご存知の表現apply forは仕事内容への応募を意味します。(apply toには別の用法もあります。「当てはまる」の意味だと仮定してもやはり意味をなしません。そちらはご自身で確かめてみて下さい)

以上を踏まえて(A)の和訳を試みます.

JS氏は「RF氏の作品」という名の組織に応募することで、「ドキュメンタリーという用語」を投資した。

文の意味という観点で(A)は修正を加えないといけません。

やはりinvestとapply toの2語が明らかに浮いています。investはinventの写し間違えと考えるのが自然です。下線部(d)はapply it toのように修正しないと無理がありすぎます。その2点を修正すると以下のような和訳になります。

JS氏はit(=ドキュメンタリーという用語)をRF氏の作品に適用することで、ドキュメンタリーという用語を発明した。

問題なさそうです。<セクション5>で(B)の方を検討します。

セクション5 検討箇所②

(B) A definition has proven durably because it is so very flexible.

文法的に大きな問題があります。動詞proveは第2文型SVCか第3文型SVOで使います。ところが動詞proveに続くCもOも存在しません。では本文ではproveは第2と第3のどちらの文型で使われていたはずなのでしょうか。2つの仮説の元で検討します。

仮説1:第2文型SVCに落とし込もうとするとdurablyをdurableに直さないといけません。5文型の考え方がうろ覚えのひとはI am a student.を浮かべてください。I am.で文が完結していたら「それってつまり何なん?」と続きを待ちますよね。文を読み切っても謎が残るので非常に気持ちが悪いです。a studentが欠落していると成立しないので不完全自動詞と呼んだりします。

仮説2:第3文型SVOに落とし込もうとすると、どこかに目的語Oを求めないといけません。becauseをthatに置き換えることでところで副詞句から名詞に変化させることができます。しかし1歩引きでみて考えましょう。

東大の設問はそもそもが(e)because it is so very flexibleの適否を判断する問題でした。that it is so very flexibleと修正すると名詞化されて、晴れて目的語Oになることは確かにできます。引き続いて意味の面を考慮することになりそうですが…。

いやいや、その必要もなさそうです。文脈を見るまでもなく、仮定2の元だと下線部(d)と(e)の両方に誤りがあることになります。出題では下線部の誤りは1箇所とされているので矛盾します。よって仮説2は誤りです。

以上の思考の結果、背理法を使ってproveは第2文型の動詞として使われていることが分かりました。

余談になりますが、Atsuさんも触れられているようにso very flexibleという表現は問題ありません。例えばvery deliciousという表現は誤りだと唱える人が多いですがso deliciousは受け入れられます。delicious=very tastyなのでvery very tastyはダメだけどso very tastyはオッケーという論理です。主観的な気持ちがこもったsoは客観寄りのveryとは性質を異にするので、並べてもいいわけです。

閑話休題、<セクション6>で今回取り上げた設問について締めます。

セクション6 1問正解で1点確保!

(A) JS (*invested/invented) the term ”documentary” by (*applying to/applying it to) a work of RF.
(B) A definition has proven (*durably/durable) because it is so very flexible.

写し間違えの修正と下線部の指摘が済みました。晴れて入試1問を確保!諸説ありますが120点満点のうち1点か2点です(笑)。

ここまでの全てを振り返ります。今回はAtsuさんの記事を読みながら考えた、僕の思考過程を説明しました。しかし「下線部(d)(e)の両方ともが答えになる出題はおかしいので、proveは第3文型動詞ではない」という理屈は一見セコいですね。

出題文に写し間違えがある可能性を考慮した、論理ゲームとして解いたのでこうなりました。ちなみにWeb記事を読むと、Atsuさんも解きながらどうもスッキリしないようなコメントをされていましたよ。

日本は英語教育もガラパゴス化していました。世の流れは遷りゆくものですが、<セクション7>で僕の願いを込めます。

セクション7 非実用英語とアカデミア

ところで構文や文法を細かく分析することは、実際何の役に立つのか。そんな声が聞こえてきそうです。ですが知を共有するためには記述することが必須になります。再現性があるカタチで他人に説明するというのはそういうことです。

誤解なきように言いますが、僕は別に文章を読むのに鉛筆でSVを探したり括弧でくくったりする習慣はありません。前から後ろに読み流しますが、予測に反して「ん?」っという違和感に出くわすことがあります。そのタイミングになって初めて深く見直すのですが、多かれ少なかれ英語ネイティブも同じだと思うよ。


実用英語が叫ばれる昨今の風潮に逆行している感はあります。実際に大学入試でも英文解釈の問題はどんどん姿を消しています。個人的にはさみしい限りです。先日始まった共通テストの問題をみると、なおさらそう思いました。

#005-02 修了とアカデミア

でも学問の場としての大学の役割もあるので、これはこれで極めて重要な価値があると声を大にしておきますね。今回は英語の姿を借りた論理思考ゲームでした。

第5話 東大英語の脳内大公開


おわり//

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