第2話 字幕にタオルを投げる
セクション1 海外ドラマ
英語の学習には海外ドラマがいいらしいよ。こんな言葉を最近はよく聞くようになりました。
僕は随分と前から目を付けていて、内々で面白さを伝えてきたものです。勉強会を主催するには100パーセント理解しないといけないけれど、難所にぶつかることがしょっちゅうあります。
英語学習の界隈で1番簡単と称されている『フルハウス』でも難しいです。日本語字幕や聞き流しでもいいけれど、たまには脚本家の仕掛けたポイントを全部拾ってみるのもおススメです。パズルのピースがぴたっと嵌ったときのゾクゾクした気持ちになれます。
どうにもしっくりこない場面であれこれ考えて、幾重もの苦労の末に納得できた…<セクション2>からは長々とそんな話をします。
セクション2 問題のシーン
往年の人気コメディ『フルハウス』。ひとつ屋根の下でパパ3人が娘3人を育てていくファミリードラマです。3人姉妹の父親の子育てを、親友と義理の弟が手助けする日常のどたばた劇なのですが、
今朝もリビングで長女と次女が喧嘩中です。聞き分けの悪い妹にどんどん口喧嘩がエスカレートする中、パパ2人が中を割って飛び込んできます。
2人を引き離しながら言いました、
“Hold it. Mutual corners.”
部屋の両側に移動してそれぞれの言い分を聞いてあげます。
実際の映像が気になるかたはDVDで確認できます。シーズン2の長女D.J.と親友キミーが絶交する回の冒頭部分です。
何を言わんとしているか20秒くらい考えてもらったら、<セクション3>でその話をします。
セクション3 疑問の始まり
この台詞の意味、あなたは分かりましたか?mutual cornersは直訳すると「思いやりのカド」みたいな感じです。この時点で僕の頭に浮かんできたのは次のような感じでした。
格闘技はほとんど見ないけどボクシングのコーナーみたいなものかな?そしたら、「二人とも思いやりをもって自分のコーナーに戻れ!」こんな感じのセリフかなと思いながらもモヤモヤしてました。
こういうときはGoogle様の出番です。でも検索してみてもmutual cornersなんてヒットしない。スッと腑に落ち切らないので、字幕をオンにしたまま巻き戻しを繰り返して、何度も何度も見直します。
すると字幕はmutual cornersなのに耳できくと「ニュ」と言っているかもしれない。そんなことに気づいてきました。では本当は*nutual cornersなのか?
謎が深まったまま<セクション4>に続いていきます。
セクション4 悩んだ末に解決
そもそも*nutualなんて単語は存在しないので、neutralかもしれないと仮説を立てました。
そしたらなんとGoogle検索でヒットするではありませんか!ボクシングの用語で、赤コーナーと青コーナー以外の2つのカドをニュートラルコーナーと呼ぶらしいです。白コーナーみたいなイメージですかね。
先ほどのシーンで分け入ったパパが言ったのは、
「はいはい、試合中断。それぞれ離れて待つように。」
ざっくりこんな感じだったんだと理解しました。あくまでもざっくりですよ。
解決した感じがするので<セクション5>で一息つきます。
セクション5 いったん感想
英語字幕を作ったのはたぶんアメリカ人だと思うけど、ボクシングには疎かったのかもしれませんね。僕も相当調べて納得に至りました。ファーストインプレッションで違和感を覚えてから、仮説と検証を何度も繰り返しました。
ボクシングと英語の両方に詳しい日本人なら初回で流し見ただけで済んでいたかもしれませんね。
意欲的なひとは、DVDを実際に見て聴き取れるか挑戦してみて下さい。あまりにもさり気ない台詞なのでmutual cornersではなくneutral cornersであることは聞き分けるのが難しいです。何度聞いてもわからないときは[ミュ]→[ニュ]、[チュア]→[トゥラ]を強く意識して、自分でも口を動かして理論的に分析してみて下さい。
最後に<セクション6>では詳しく見直してまとめをします。
セクション6 ダメ押しと振り返り
なぜニュートラルコーナーなのか。
ボクシングのラウンドの合間は赤コーナー青コーナーに戻ってセコンドが水を飲ませたりするのを観た記憶があります。セコンドはそれぞれの選手のコーチみたいな人で、次のラウンドのアドバイスも話しかけてますよね。では続いてニュートラルコーナーとは何か。そこは審判が反則を注意したりドクターチェックが入る場所のようです。
きっとこの喧嘩シーンでは姉妹を引き離したパパ達は、ひとりずつのセコンドではないんです。決して2対2で喧嘩が再開するわけではありません。パパ達は姉妹を引き離し留まらせて言い分を聞いている、審判の役回りだということでした。
…
ドラマを流しみて気にならなかった人が大多数だと思います。英語はまずはたくさん見て、たくさん聞いて、たくさん楽しむのがいいので全然問題ないです。
一方でじっくり英語教材としてみていた人は、いまいちスッキリしなかったかもしれません。でも字幕という大きな壁を前にして降参する人がやはり多数だと思います。
しかし僕は最後までタオルを投げなかったよ。
第2話 字幕にタオルを投げる
おわり//
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