34まだ見ぬ駅を旅する

 私の過去の経験の中でやり残している事が幾つかあります。そのうちの一つが旅です。 旅への憧れはかなり強いものがあるにもかかわらず、あまり旅をせず、今に至っています。
 何も大きな旅に憧れているわけではありませんが、旅を通じて自分を見つめ直したいという想いがあります。
 たくさんの趣味をもち、それなりの成果をあげ、楽しみを充分味わってきました。 パチンコ、将棋、麻雀、映画、読書、パソコン、カラオケ、バレーボール、英語・・・ みんなおもしろかったけれど、総じてあまり動かない趣味が多く、それだけ旅に出そびれてしまいました。
 そこで、なんとか手ごろで、すぐに取り組める旅はないものだろうかと考えました。
 そして毎日の通勤列車の中でふと思いついたのが「まだ見ぬ駅を旅する」ということです。これだけ毎日通っていながら、降りたことのない駅のなんと多いことか。定期を持っているということは途中の駅で降りる権利を持ち合わせているということであり、これを利用しないのはもったいないことだと思いました。
 旅費が無料の旅行がそこにあるというのに・・・。
 降りたことのない駅で降りたって、周辺を歩き回ることだって立派な旅です。最近は鉄道の合理化の関係から無人駅が多くなり、降りる機会のない駅も結構あります。また、そんな小さなひなびた駅ほど気持ちがひかれます。
 好きな本を駅のベンチや、ふらっと立ち寄った喫茶店で読みふけるのもきっと楽しいでしょう。歩きと読書の両立ができるなんて素敵なことだと思います。
 近頃は運動をかねて夫婦そろって歩いている姿をよく見かけます。私も一度妻を誘って試みてみたいと思っています。そういえば、買い物以外で二人して歩くなんて久しい間行なっておりません。子育てを終えたこれからの楽しみの一つに加えようと思います。
 こんなことを考えていたとき、新婚旅行で見かけた素敵なミドルの夫婦を思い出しました。別に親しく会話を交わしたわけではありませんでしたが、二人から感じられる気品と落ち着きのある雰囲気が私たちをとらえました。あんな風に歳をとり、あんな風に旅行をしたいものだと話し合ったものです。
 二十数年前のことでした。奥さん覚えていますか。
 テレビの旅番組も興味深く見ています。まだ行ったことのないところを観る楽しさや地方の食べ物を知るおもしろさもありますが、旅人の旅の仕方に一番興味をひかれます。
 週休二日制が定着してきたことでもあるし、一日目の休みを小さな旅に当てたらいいと常々思っているのですが、花の金曜日には飲み会や麻雀の誘いが入って、嫌いでない私は 積極的にその誘惑に負けてしまい、なかなか実現しません。
 もう一つ計画していることがあります。
 まだ降りたことのない駅があるのと同様、町内でもまだ歩いていない道が結構あることに気づきました。
 表通りは通っても、ひとつ路地へ入る機会をもたずにきているところが案外多いものです。意識的に通らなければ、町内の道でありながら一生通らないということにもなりかねません。まだ見ぬ道に思わぬ発見がありそうな気がします。
 長女が自転車に乗り始めた頃、その練習をかねて町内を走り回ったことがあります。そのとき、この着想が生まれました。
 見たことのない路地裏を通るとき、なにか未知の世界にはまりこんだようなときめきがありました。
 都会へ行っても、少し裏道へ入るとずいぶん趣が異なります。田舎の裏道には植え込みなどがあって季節の花々が咲いており、情緒があります。
 町内の白地図を用意し、歩いた道を塗りつぶすという作戦を立てています。
 デジタルカメラ片手に花を写しながら、通ったことのない路地を散策し、白地図がくまなく塗りつぶされ、花地図ができていくなんて考えただけでも楽しいではありませんか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?