301 百円辞典に取り組んで

 漢字学習を試みる時、漢字の厖大な量に圧倒されます。
 小学校で漢字を習い始めてから定年を迎えた現在に至るまで、漢字を眼にしない日はありません。各種説明書に目を通す時、新聞や本を読む時、メールや手紙を書く時、町にあふれる広告を眺める時・・・・・漢字はいつも私たちと共にあり、生活と一体化しています。そして誰しも漢字を覚えるための時間を持ったことでしょう。
 そんな漢字ですが、読むことは出来ても書けない事が多いのも事実です。パソコンの普及により、手で書けなくとも、読めてキーを打てれば書けるという現状ではありますが、何となく物足りない思いをしているのは私だけではないでしょう。
 漢字をすべて覚え尽くすことは不可能です。漢字辞典を一冊覚えられれば良いのですが、そんな時間も体力も能力もありません。漢字検定用の問題集なんかも出回っていますが、等級にこだわった学習は私の気持ちが受け付けません。それより、何か簡単な辞書を丸々一冊マスター出来たらいいのになぁと思いました。量の多少は別として、一冊にまとまったものを熟知することで総合的な力が付くことでしょう。
 そこで私が目につけたのが、百円均一店で売っている「用字用語辞典」でした。一冊二三〇ページ足らずの小さな辞典なのですが、その漢字を全て覚えられれば、必要最小限かつ実用的な漢字を覚えるという私の願望を満たしてくれるだろうと考えました。
 取り組んでみて、その考えの甘いことを思い知らされました。普段使っている言葉を漢字に直すのは考えた以上に大変で、各ページに必ず書けない漢字があり、自分の漢字力のなさを痛感しました。一〇〇円辞典は安くても易くはなかったのです。これではいけないと思うとともに、この一冊を完全制覇したいという欲求が湧き上がってきました。
 さっそくそのための方策を立て、学習を開始しました。
 その方策とは、漢字を含んだ用例をすべてひらがなに直し、パソコンに入力して、自分独自の問題集を作る。それを仮名漢字交じり文に復元する作戦を立てたのですが、その問題集を作る作業が大変でした。パソコンへの入力ミスも多く、学習を進めるたびに誤植が見つかって、度重なる校正を余儀なくされました。しかし、全文をひらがなにしておいて、それを仮名漢字交じり文に直すという方法は、自分ながら良いアイデアだと思います。こんな問題集が売り出されても良いのではないでしょうか。
 ミニ辞典に、こんなにも時間と労力をかけるようになるとは予想だにしていませんでした。しかし、思った以上に楽しい時間を作ってくれました。私にとって、軽くて重い百円辞典になりました。
 この漢字学習は、ひらがな単文をかな漢字交じり文に直すだけですから、方法が単純なので学びの導入や空き時間の活用などに向いています。前述のテスト化した問題をやり、学習ペースに乗せたうえで数学を解いたり、随筆を書いたり、歴史書を読んだり・・・・・と次の項目に移行していきます。その日の学習の推進力として役立つ存在となっています。
 それに、その日に学習した単文をゆっくり丁寧に書くことで書写効果があり、気持ちも落ち着かせてくれるのです。
 総ページ数が二〇〇頁余りなので、一年に一冊分は消化できます。一頁マスターするごとに破り捨てるのを「辞書を食べる」と言いますが、一枚ずつ切り離していって、一冊分がなくなるのは快感です。 暗記力が頓に減退しており、二回り目に学習した時、同じ漢字を間違えるケースが多く、少なからずショックでしたが、前回の名残があり、前より早く覚えられるのは確かです。
 百円の辞典一冊で心ゆくまで楽しめ、勉強できるなんて何とも愉快です。ホントに価値ある百円です。
 パッと開いたページの漢字がよどみなく書ける日を夢見ています。


 【気付きと対策】

※ 学ぶ気持ちさえあれば、工夫することで百円の書物(一〇〇円ショップ・古本百円コーナー等)を宝物に換えることが出来ます。

 ・ 紙と鉛筆だけで豊穣の時を作る作業は、定年後の充実したときを過ごすことに繋がります。

・ 孫や子供の教科書なども最高の遊びのネタになります。手元にある宝物を発掘しましょう。

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