【弓道】学生指導におけるこれまでの取り組みと反省【指導】

 弓道を学生に教える立場になって1年と少しの年月が経過しました。今まで先輩として多少の教える経験は積めど、きちんと報酬をいただき、責任を伴った指導は初めての経験です。自分の経験から教えることについて基本のようなものはある程度会得しているつもりですが、やはり人に物を教えるというのは難しいと日々痛感させられます。
 間もなく教え子たちは夏の大会に挑みます。ご存知の通り、学生にとって夏の大会は地元を越えて都道府県、全国の舞台に挑戦するための試金石でありながら、最終学年においては大会が終われば引退となるためこれまでの活動の集大成を発揮する場でもあります。コーチの立場としてはここまでの指導の良否が試合の結果に現れると言っても過言ではないでしょう。もちろん試合の結果だけがコーチの存在意義ではないのでしょうが、競技という側面上結果を出すことは必要条件であり、それが生徒またはその保護者が月謝を払ってまで教わるに値するコーチ(団体)であるか評価しやすい基準となるのは間違いないでしょう。
 何が言いたいかというと、私はこれまで生徒に伝えてきた言葉、価値観、射技、私自身の取り組み、それがどのくらい正しくてどのくらい間違っていたのか。その答えが知りたいのです。そしてその答えからこれまでの取り組みを反省し、次の世代の生徒達の指導につなげたい。そう思ったので、生徒たちにコーチとして接する際に考えていたことを整理するためにこの記事を書きます。
 拙い文章ですので読みにくい部分、誤解を与えてしまう部分あるかと思いますが大目に見てください。明らかにおかしいところがありましたらコメントやXなどでご教示いただけると幸いです。

生徒たちについてもう少し詳しく。

 まず生徒たちのことについて説明します。
 私が指導しているのは中学生です。公立中学校にある弓道部の生徒で、彼らは月曜~土曜の一部時間帯で部活動として弓道に取り組むのと同時に、土曜の部活動以外の時間帯と日曜は部活とは別に創設されたクラブに所属し活動しています。このクラブには弓道部に所属する生徒が加入します(一部生徒は部活にのみ所属)。つまり弓道部の生徒は部活とクラブの二足の草鞋で弓道に取り組んでいます。なお活動内容としては部活もクラブもほとんど変わりありません。
 私はこのクラブのコーチとして中学生に弓を教えています。コーチングの時間は1回3時間程度、それが月に3~4回程度です。時間にすると10時間程度と長く感じますが、実際にコーチの立場になるとその体感時間の短さに驚きます。
 ちなみに人数は現在20人程度となっています。

指導の目的や目標、大切にしていること

 私が中学生を指導する目的は「弓道を通じて何かに熱中すること、その楽しさや尊さを知ってほしい」からです。
 私自身の話になってしまいますが、中学校で弓道に出会ってから今まで本当に弓しかしていません。勉強が忙しかろうがなんだろうが弓ばかり引いていましたし、仕事で忙殺されて家に帰れば死んだように眠る生活を繰り返していても、暇さえできれば弓を引きに行きました。大人になっても自分が楽しめることができるのは中学生のときに弓道に熱中しそれを楽しんでいたからです。
 自分の好きなことができない・わからない大人がこの世の中にはたくさんいる中で、学生の内にこのような経験ができて大人になってもそれを楽しむことができるのはとても幸せなことです。将来弓から離れてしまっても何かに本気で取り組み、そこから得た経験は他のことにも必ず役に立つことは少し長く生きた方であればよくお分かりいただけるのではないでしょうか。これは3年という制限された時間の中で部活や自分の掲げた目標に本気で取り組むからこそ得られるかけがえのない経験です。大人になってからは絶対に体験できないことなのです。
 そして生徒自身が弓道に本気で取り組んでよかったと感じやすいことといえば、やはり良い結果が得られることでしょう。つまり大会での入賞です。具体的に書くと入賞は絶対に必要ということはないのですが、生徒たちにとってこれが1番わかりやすい努力の報われ方ですからコーチとして結果にはこだわりたいところです。もちろん大会で入賞できる子は数えるほどしかおらず、それ以外の生徒は試合に負けてしまうことになります。こういった生徒たちが本気で取り組んでよかったと思えるかどうかが自分の力の見せどころであり、コーチとしての存在意義が問われるところでしょう。
 また指導するにあたって生徒自身が考えるように仕向けることには特に気を付けています。前述のような気持ちにさせるためには主体的に活動してもらう必要があるのは当然ですが、大人になるにつれて人から何かを指摘されること(特に間違いを修正されること)はどんどん減っていきます。そのときに自分を客観的に見つめ考えて行動することが重要になるのは言うまでもないでしょう。弓道は自分のした行動の結果が即座に的中や矢所、矢勢や自分の残心に現れるので自分で考えて行動させる訓練をするのにとても向いています。これから何に向けてどんな練習をするのか、今日はどんなことに気を付けて練習するのか、今の射の何が良くて何が問題なのか、改善するとしたら何をするのかなど、「教えないように教える」をモットーに指導をしています。

これまでの取り組み

 昨年の夏、中学3年生(現在の高校1年生)が引退してから特に意識したことは的中率・精神力・思考力の向上に取り組むことです。それぞれ詳しく説明します。
 的中率の向上は学生弓道の指導において最も重要なことといってもいいでしょう。同じくらい重要なものの1つに体配がありますが、中学生を教えるにあたり自分はこの体配の指導は二の次にしました。というのも体配の指導は私の他にいる2人のコーチが厳しく見てくれていますし、昨年夏時点でかなり丁寧に行射することができていたからです。そこで私は体配の指導はほぼせず、射技指導に時間を多くかけることにしました。昨年いっぱいは特に1年生に時間をかけて、次年度の夏の県大会で入賞者を出すことを目標に指導にあたりました。具体的な指導内容は個々により異なりますが、一貫して教えたことは「狙い・伸び合い・角見の働き」の3点です。教えることはシンプルにして中学生の誰もが理解して取り組みやすいように注意していました。
 精神力については本番を意識して練習させるように心がけていました。練習が始まったらすぐに立ち練習をすることはその1つです。8または12射、立ち形式で記録を取りその後射込み形式で練習することは自分が指導するときのお決まりのパターンです。またその際は初めの1立ちはなるべく口出しをしないようにしていました。試合中は指導ができませんし、私は毎日生徒の射の見ているわけではないため、前回の指導日から射にどんな変化があったのかよく観察してから指導をするために、初めの1立ちは特に指導することはしませんでした。ときには完全に試合形式の練習にして立ち中の指導はせず、順位を決める競射までさせることもありました。効果があったかはわかりませんが、少なくとも試合で競射になったときにやり方がわからずあたふたする、なんてことはなくなりました。
 最後に思考力の向上ですが、これはとにかく生徒たちに質問を投げかけ続けました。「今矢が前に飛んでいったのはどうしてだろう?」「今どんなことを考えて弓を引いてた?」「打起しが低いとどんな影響があると思う?」などと、1人に1度は必ず考える質問を投げかけるよう注意しました。最初はなかなか答えられなくても徐々に答えられるようになっていきます。これは普段の練習から自分自身でよく考える癖がついてくるからです。また大会が終わると直後の練習で必ず振り返りをさせました。振り返りシートを自作し、感想・良かった点・改善点・次回に向けて具体的な行動を考えさせて実行させるようにしました。こちらから指示を与えられるのを待つのではなく、自分自身で考えて行動できるようにさせるための取り組みです。振り返りは何となく「大会で結果が出せない...」と落ち込むだけになってしまう(自分がそうだった)生徒が多いため、勝つ負けるだけでなく自分の行動目標が達成できたかどうかに注目させるようにしていました。

これまでの反省とこれからの取り組み

  • もっと自信を持たせる指導をすべきだった
     試合前になると「どうしよう」とか「ヤバい」といったネガティブなワードがよく聞かれました。試合は自分が精一杯やりきることが大事で、結果は後からついてくるということをもっと徹底して教えるべきだったと思います。

  • 早気にさせないように指導を徹底すべきだった
     現在中学3年生は5人いますが5人とも会が短く、内2人は早気です。早気は1度陥ってしまうと引退までに直すことはほぼ不可能です。的中が安定しないばかりか弓道そのものが嫌になってしまう危険性があるため、日頃の指導で伸び合いを特に厳しく教えて早気を未然に防ぐようにする必要がありました。

  • 活動内容について他のコーチたちと情報共有をもっとするべきだった
     生徒から聞いて初めて知ることやこちらの活動を共有しないことが少なからずあり、生徒からも「コーチによって言うことが違う」という意見をもらうこともありました。もちろん弓の引き方には人それぞれ違いがあるので全てを統一することは難しいですが、こうした情報共有によって混乱を与えることを未然に防ぐことはできました。これからは活動内容や生徒個人の情報などを些細なことでもコーチ間で共有して指導にあたるようにしたいと思います。

終わりに

 冒頭でも述べたように報酬をいただいて指導させてもらっている以上、何らかの形で結果を示さなくてはなりません。個人的にはそれを大会での入賞と決めてこれまで取り組んできました。しかし大会に参加する生徒自身が一所懸命に弓を引き、自分の目標を達成して、弓を引いていてよかったと思ってくれればこれほど嬉しいことはありません。生徒自身が大会に勝つためにどうすれば良いかということに真剣に取り組めるようにコーチが行動した先に大会での成功という結果に結びつくのだと思います。これからも結果が第1目標の指導ではなく、生徒の将来を考えた指導であり続けたいと思います。

追記
先日、全国・関東大会への出場校を決める県大会があり、なんと男子は団体・個人ともに全国大会へ、女子は関東大会への出場が決まりました!
1週前の市内大会では皆思うような結果が出せず不安と焦りがあったと思うのですが、自分を信じて本当によく頑張ってくれました...。

さらに追記
日本武道館にて全日本少年少女武道錬成大会が開催され、男子の部で優良賞、女子の部で優秀賞と技能優秀賞を勝ち取ってくれました!
この試合を見ていて思いましたが、たまたま普段より的中がよかったというよりは普段の練習と同じ的中が出て勝てたという印象です。緊張感を演出した練習やメンタルトレーニングが効果を発揮した良い例かもしれません。

さらにさらに追記
明治神宮にて行われたJOC(ジュニアオリンピックカップ)で男子団体がベスト8、個人にて優勝と技能優秀賞を勝ち取ってくれました!!
この大会には応援に行けなかったのですが、大会後結果を聞いてたまげました……。男子が個人優勝するのは当中学弓道部史上初の快挙です。

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