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嘘みたいだけど本当の話

こんにちは、こんばんは、おはようございます。

まるきり更新途絶える飽きの早さを見せていますが、
中々ほかでは書けないほんとうの話を
読み手の不快感なく書き記す方法を見つけられませんでした。
ようやく、思い浮かんだのです。

最近のもやもやのお話を喩えた
物語として想像いただければと思います。

これから語られるのは驚くことに
嘘みたいだけど本当の喩え話。




世界には未踏の山がいくつか存在している。人々の積み重ねてきた知恵や技術、体力の向上に伴い、多くの未踏の山たちは次々に攻略されていた。その中で、限られた者たちしか挑むことができない山。その中の一つに天上山と呼ばれる山があった。

「5年後に天上山に登ろう!」

10人のリーダーが集まる場所で、一人の男がそう宣言した。全員の体力も装備も確認する前に、突然言い出した言葉。しかし、この時点では、反論できるだけの知識を持っている人は一人も居なかった。

「天上山に登るらしいよ」
「へぇ、一体誰が?」
「そんな簡単に出来るのかな?」
「天上山って?あの未踏の一山?」
「そういや、登るのって全員で、だってさ」
「え?いつ?装備とかなにもないけど?」

困惑と、疑念が拡がるのはあっという間だった。年齢も性別も生れた場所も育った環境も、歩んできた道のりも。全てが異なるそれぞれの人々には、気力も体力も、装備にかけるお金も何もかもが違う。それを、鶴の一声で実現させようと言うのだ。天上山踏破に成功する事が出来る先駆者の道筋は誰も知らない。

「取り敢えず、できる準備しましょうか」

誰かが言った。9人のリーダーたちは、それぞれのメンバーたちに富士山に登ることを告げた。それぞれの反応を受けて、幾度も会議を重ねた。飛び交う噂の中では、5合目まで挑戦できればいいだろうというもの。しかし、リーダーは首を横に振った。

「目指す先は天上山の頂点だ」

変革は時代の中で生き残る為の強者の選択だと誰かが言っていた。その言葉を借りるのならば、天上山に挑むと言い出したリーダーは他の者たちよりずっと先の未来を見据えていたのかもしれない。
それでも、人は大きな変化を好まない生き物だ。現状維持バイアスなどと呼ばれ、学術的に存在を認められているほど。変化が大きいほど反発は大きくなる。そんな中でも、変化を宣言したリーダーの意図を他のリーダーたちは過半数がその本意を汲んだ。だからこそ、準備をしようという発言に肯定するように動き出したのだ。

「5年後に天上山に全員で挑むなら、イチから順番にやってたら間に合わない」

そう言い出したのは、参謀役のリーダー。準備を謳ったのもこのリーダーだった。外部にいる他の踏破経験者たちに話を聞きながら、あれがないこれがないと取りまとめているらしい。リーダーたちは、参謀役のリーダーが他への聞き取りをしている間、体力づくりや装備の手配に勤しんだ。

「時間ないから取り敢えず天上山に向かいましょう!」

突然の言葉に目を瞬かせるのは8人すべてのリーダー。準備も整っていないのにという疑念を抱えながら、メンバーたちに荷をまとめて疲れたら台車で休みながら交代で進もうと試行錯誤をしながら指示を出していく。

「意図が納得できない」

具体的に動き出すと、そう言って離脱をするメンバーもいた。逆もまた然り。

「天上山に挑むの?面白そうだから一緒に行かせてよ」

挑戦がしたいんだと加わる仲間もいた。出会いと別れを繰り返して、取り敢えず天上山の方向へとガタガタに舗装もされていない道を進み始めた。

天上山までの地図などない。いろんな道があり、それぞれに向き不向きがあった。遠くからでも見えているその山の方角へと進むまでに様々な道がある。正解はない。まずはそれぞれが、麓まで辿り着くことがスタート地点だった。
荷台を引いて装備を整えたリーダーは少し遠回りだが舗装された道を選んで進んだ。体力づくりをしたいリーダーは少しだけ高低差のある道を選んだ。メンバーが多いリーダーはより離脱者を減らすためにも、全員の顔が見えやすい広い道を選んだ。

「ちょっと、先に来て皆の誘導手伝ってくれないかな」

参謀役のリーダーに声をかけられ、あるリーダーは頷いた。声をかけられたリーダーは、昔から道を整備して多くのメンバーを誘導するのが得意だった。誘導役のリーダーは数少ないメンバーを連れて参謀役のリーダーの元へと速度を上げた。

「実は他のリーダーたちが進んでいる道は、この場所で一度合流するんだけどね、この先の答えがないんだ」

曰く、踏破の実績はないから正解などわからないということらしい。見上げた天上山の麓は合流点から先がいくつも枝分かれしていた。誘導役のリーダーはが眉を寄せると、一つの地図を渡される。

「ここは先日の土砂で通行止め。そっち側は多分大丈夫。ここまで着いたら案内しといてほしい」
「わかった。じゃあ誘導灯を置こうか」
「それいいね!」

話し合いを重ねながら誘導灯を作る作業を進めていく。参謀役のリーダーはその間も次々に声をかけてくる。

「あとあれ、そっちの道で必要だから用意しておいてほしい」
「わかった。こないだ言っていたものはどうなった?」

参謀役のリーダーの指示を受けながら誘導役のリーダーは地道に道を慣らしていく。荷台を進めるように、多くの人の顔を見ながら歩めるように。そうやってこれから追いついてくる他のリーダーたちのために誘導役のリーダーの下にいたメンバーは数が少ないながらも必死に体を動かした。

「リーダー。これ、やっとくって仰ってたやつは?」
「ああ、なんか順番前後するって。それ置いといて先にこっち頼むよ」
「……はい」

誘導役のリーダーからの指示に少しだけ困惑をしながらも、やることだけは山積みのメンバーは必死に体を動かした。やがて徐々にメンバーを率いて集まってくる他のリーダーたちが先行してたどり着いてくる。

「先に様子を見に来たんだけど、誘導役は間に合いそう?」
「皆さん来る頃には整わせるように頑張りますね」

声をかけてくるリーダーたちに休息を与え、リーダーたちはまた元の道へ戻っていく。しっかりしなければと叱咤して次の準備に駆けずり回る誘導役のメンバーたち。

「お前ら、よく頑張れるね」
「誰かがやらなきゃいけないからね」

休憩の合間に感嘆の声をかけられると誘導役のメンバーは笑う。元々自己犠牲精神が高く、無茶もある程度こなしてしまえる胆力を買われた身。この程度ならまだやれると自負もあった。

「ねぇ、これどうするの?」
「ああ、それはこうしてください」
「こっちは?」
「それはこれからの課題です。ちょっと待っててくださいね」
「おっけー」

誘導役の名に恥じないよう必死に順序を守っての誘導を続けていく。各リーダーたちは時に様子を伺いに来るも、深入りする言葉はかけてこなかった。
誘導役のメンバーは作業をこなす中で少しずつ違和を感じ始めた。道を広くすること、道を均すこと、道を開拓すること。沢山あるやらなければいけないことを進めるため、少人数で進める作業は、手順や道のりが決まっていないことも多々あった。

「この道、どっちから行くんですか?」

緩やかな下り坂から急な登り坂に向かうのか。緩やかに勾配が続く道にするのか。はたまた遠くても平坦な道を探すのか。進めていく中で悩むことを参謀役のリーダーに聞いてみる。

「それはこれから決めるから。あ。山の入り口決めたから先にそっち整えといてくれるかな」
「……はい」

目の前のことを決めるためには、先のことを決めなければいけない理由はわかる。天上山の頂点という具体目標は決まりながらも、そのための道が決まっていないのだ。成功させるための計画は順序が大切。けれど、雑な投げ方に少しの不快感を覚えるのは人だから仕方がなかった。

「辞めたくならんの?」
「言わないって決めてるので」

誘導役が辞めれば少し無理を強いていた他のリーダーの元に居るメンバーたちはもっと疑惑を深めるだろう。だからこそ、弱音を吐かないと決めた。それは自身に課した呪いでもあった。

「これ、大枠詰めたから細かい調整は任せるわ。よろしく」
「え?ちょっと待ってくださいよ」
「ん?だってそれ誘導役の君のほうがわかってるでしょう?俺は他にも決めなきゃいけないこと多いんだよね」
「……まぁ、そうですけど」

一度飲み込んた言葉を吐き出すことなく、頭を捻る。誘導役のリーダーはいつしか、その下にいるメンバーにとっては守ってくれる相手ではなく戦うべき相手にすり替わっていた。

「リーダー。整理してください」
「今は準備で参謀役のメンバー増えてるけど、今後は移動させられるって話だから」
「いずれね。それはわかりましたけど、参謀役のメンバーが別のとこに移動させるならここの人手って増やす必要あります?」

リーダーの頭の中でも明確な理想像は固まっていない。それは変革の途中だからメンバーも理解はしている。けれど、参謀役のリーダーと一緒に常に行動しているのなら、もう少し明確な情報を知っているはずだった。それを教えてほしいのだ。

「だから、そこは今後こうしていくって話で今はまだ……」
「でもリーダーはあの機械入れて効率化すれば、荷台引くあの人たち増やす必要ないって言ってるじゃないですか。なのに荷台引きを増やすんですか?」

矛盾をメンバーは理解できない。必要性を納得できる説明をできないなら、それは不必要なものだと、反感を喚ぶだけだとメンバーは思った。それは他のメンバーたちの温度感を察して行き着いた答え。今いるメンバーを守るための行動でもあった。

「あと、道均すのが得意なあの人たち増やさなきゃいけないって、体力的に荷台引くの辛いって言ってた人たち異動させて編成変えれば良くないです?それを、どこまで……」
「だからそれはいずれの話だから今は出てきた情報を元に」
「だからその情報動かしてからじゃなきゃ何もできないって話でしょう」

ヒートアップした誘導役のリーダーとメンバーの話し合いは平行線のまま幕を閉じた。そしてこれからも平行線のまま進んでいくであろう内線の火蓋は切られたばかり。

天上山へ登り切るために、何人の荷台を引く人々を犠牲にするのか。何人の体力自慢の矜持をへし折っていくのか。

各リーダーの想いはメンバーには正しく伝わらない。リーダーたちが好き勝手するほどに、メンバーの疲弊は溜まっていくばかり。変革が悪だとは一概には言えない。けれど、伝え方を誤るだけで全ては泡沫の夢物語へ帰すのだと各リーダーたちが気づかなければいけない。

頂点という具体の目標があっても、そこに辿り着くまでの道のりが定まらない状態でとりあえずその方向へと向かわされる。合流点でようやく聞いた進捗は当初の予定を大きく覆す最悪のもの。都合の悪いところは最後に投げ捨てて、忘れ物は拾っといてねと雑な指示を受ける。なんだそのこれ以上ないほど雑な指示は。
既にスタートから足並み揃わないのに、あれこれ雑な指示で、誰もが納得できるなんて思っているのか。

「頂点に辿り着けば、バーンと行くかもだからね。頑張ろう」
「名声得られるかもだよ」

そんな甘言を信じられるほど純粋無垢な子どものままでいられたのなら、簡単だったかもしれない。残念ながらそうではないのだ。
正しい道のりなんて誰にもわからない。天上山の頂点へこのメンバーたちは本当に辿り着けるのか。最後の結末は、まだこれからの話。


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