見出し画像

ホスピタリティケア⑤チーム・不適切な対応・効果

 これまで4回にわたってご紹介してきましたThe Harmony Inc.の認知症ケアメソッド『ホスピタリティケア』のシリーズも今回で最後となります。
 前回はホスピタリティケアの技術面ではなく、哲学的側面ともいえる「ケアの軸」についてご紹介しました。

 今回の記事ではチームで行うホスピタリティケア、不適切な対応、ホスピタリティケアの効果についての考察をご紹介して、このシリーズをフィニッシュしたいと思います

チームとしてのホスピタリティケア

 ホスピタリティケアを最も効果的に実現するためには「チーム」の視点を欠かすことが出来ません。ケアの軸がブレず、ホスピタリティの視点と技術を完璧に習得しているメンバーがいたとしても、それを1人でおこなっているとしたら、それはただの個人の特技です。その人がいないときのケアは従来のホスピタリティに欠けるものになり、連続性も保たれないため、結果として十分な効果は発揮されずに終わってしまいます。一人では限界があるのです。

 メンバー全員のケアの軸が一致しており、かつ全員がホスピタリティの視点と技術を習得している状態。それに加えて、メンバー間で声をかけ合ったり、お互いを気にかけ合ったりすることが出来たとき、その場はとても安全で安心、楽しく、居心地が良い場所に変化します。

 ではどうしたらチームとしてホスピタリティケアがおこなえるのか?その答えは簡単です。ゲスト様に向けるホスピタリティの視点や技術、ケアの軸をメンバー間でも持ち、お互いに行うようにすればいいのです。

 ホスピタリティケアの真髄はそのような居心地の良い場所を創り出すことにあります。それはけして1人で出来るものではなく、メンバー全員だからこそ生み出せるものです。

 また、さらにいえば、その場所をずっと保ち続けることで、ホスピタリティケアの「文化(カルチャー)」を創り出すことが最終的な目標になります。


不適切な対応

 ここまではホスピタリティケアをおこなうにあたって必要なことを見てきました。
 今度はホスピタリティケアを阻害する振る舞いを見ていきましょう。以下に挙げるものはホスピタリティに対する誤解や、阻害要因なので現場でケアを行うにあたっては十分に注意しましょう。

①タメ口
 「喉乾いたの?」「どこに行きたいの?」などタメ口や友達言葉の方が円滑にコミュニケーションが取れると思い込んでいる場合があります。親しみを込めたつもりでも周りが耳にすると不快感を感じます。
 ゲスト様の家族やケアマネージャーの前でも躊躇したり、自分や自分の家族に使われると不快に感じる言葉は使わないようにしましょう。人生の先輩であるゲスト様には敬語を使うのが当然です。

②丁寧過ぎる言葉遣い
 「ホスピタリティ」と聞いたときに高級ホテルなどを連想し、やけに丁寧な言葉遣いをしてしまいそうになりますが、あまりにかしこまって他人行儀になるのは良くありません。「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」という言葉もあるように、タメ口もダメですが丁寧が過ぎるのもかえって失礼になるから気を付けましょう。

③否定
 ゲスト様の思いや行動を否定する言葉、「ダメ。」「それは違う。」「やめて。」「しないで。」などです。否定される言葉をかけられるたび、ゲスト様は傷つき、動揺し、孤独と混乱を深めます。その結果、激しく怒られたり、不穏になられたり、暴言や暴力や徘徊などが悪化していくことも多いのです。
 「それは昔のことでしょう。」「さっき食べたでしょう。」「もう仕事なんてとっくの昔に辞めたでしょう。」「もう家族はいませんよ。」「もう家はないですよ。」「ヘビなんてどこにもいませんよ。」など、ゲスト様が信じていることや、見えているものなどを頭ごなしに否定してはいけません。

 たとえ事実とは違っても、ゲスト様にとってはそれが真実です。それを否定され事実を突き付けられてしまうと、気持ちの行き場がなくなり、不穏になられたり、激しい怒りにつながります。
 まずはゲスト様の世界を受け入れ、傾聴し、「どんなお仕事をされていたんですか?」「おなかが空きましたか?」「家族は何人いたんですか?」「どこに住まれていたんですか?」「ヘビですか、怖いですね。○○さんは大丈夫ですか?」など、ゲスト様に寄り添う声掛けをしましょう。

④間違いの指摘
 歯ブラシで髪をとかしていたり、失禁した便を触ってしまったり、トイレの水を飲まれていたり、ゲスト様の行動には驚かされることも多々ありますが、そんな時に、つい驚いて「何してるんですか!」「ああ、汚い!」「ちょっと、何してるんですか!」などと言ってはいけません。間違いを指摘されるとゲスト様は驚き、余計に混乱したり、不穏になられたり、激しく怒られたりします。
 間違いを指摘せずに「こちらを使うといいですよ。」とヘアブラシを渡したり、「一緒に手を洗いに行きませんか?」と声をかけてトイレに誘導したり、「喉が乾いているんですか?飲み物をお持ちしますね。一緒にお茶を飲みましょう。」とお声かけすることが大切です。

⑤脅し文句、強制
 ゲスト様がなにか誤った行動をとってしまった時に、罰を与えるような言葉は使ってはいけません。「〇〇抜きね。」「〇〇しちゃうよ。」「キレイにしないとお孫さんが来てくれなくなりますよ」「ガーゼを交換しないともっとひどくなりますよ」など、脅して怖がらせることで、言うことをきかせようとしてはいけません。一旦は言うことを聞かせられるかもしれませんが、ケアの途中でパニックや不穏や激しい怒りに繋がる可能性が高く、後々トラブルになることが多々あります。

 怖がらせる代わりに、一旦受け止め傾聴し、状況や理由などを聞いてみることです。「○○したくないんですね。どこか痛みますか?」などと尋ね、嫌がる理由が分かったら、それにきちんと配慮することを伝えます。「痛くないように、そっと剥がしますね。」などと声をかけ、納得してもらいましょう。

⑥バタバタする、急かす
 食事やトイレなど、時間がかかってイライラしたとしても「まだですか?」「早くして下さい。」「時間がありません。」「忙しいので後にして下さい。」とは言ってはいけません。ゲスト様を焦らせても、パニックになられたり、不穏になられたり、激しく怒られたり、良いことはありません。
 時間がかかっているときは「そろそろいかがですか?」「お手伝いしましょうか?」「トイレに入っても良いですか?」などと聞き、了承を得るようにしましょう。

⑦バカにする、非難する
 ゲスト様は認知症の症状が進行することによって集中力が低下したり、物の位置などを正しく認識できなくなったり、作業の手順が分からなくなることがあります。
 そんなとき「こんなこともできないの?」「あーあ、またこぼした。」などと言い、それをバカにしたり、ミスを非難するようなことをしてはいけません。失敗があったときも、「場所が分かり難かったですね。」「すぐに拭きますので問題ないですよ。」などと、丁寧に対応することが大切です。何度も同じ失敗をしてしまう時は、やり方を短い言葉で繰り返し伝えたり、絵やジェスチャーを交えて伝えるなど、その人が苦手なことに合わせて工夫しましょう。

⑧無視する、モノ扱いする
 本人や他のゲスト様がいるのに他のメンバーに「排便あった?」などと聞いたりしてませんか?「認知症だから、どうせ聞こえていても大丈夫だろう。」と決めつけてはいけません。悪気はなくても、それはゲスト様の存在を無視したやりとりです。
 この他に、何も言わずに車椅子を動かす、勝手に荷物を触るなどもゲスト様を軽んじた、いうなれば「モノ扱いした」行動です。ゲスト様はモノ扱いされると、傷つき、意欲を失ったり、メンバーに不信感を持ってしまいます。基本的に、本人に確認できることは直接伺い、メンバーに確認する時には、本人のプライドやプライバシーに配慮するのが鉄則です。

⑨レッテル付けをして、何もさせない
 「どうせできないんだから。」「私がやりますから、○○さんは触らないで下さい。」「これはしないで下さい」などと排除してはいけません。そのような扱いを受けるとゲスト様は「自分は何もできない、お荷物なんだ。」と落ち込み、精神的に不安定になってしまいます。
 ゲスト様は、段取りや計画が必要なことは苦手でも、昔からやっていたことなど、人それぞれに得意なこともあります。工夫して、その方ができることをやってもらうように働きかけることで、ゲスト様の自己肯定感ややる気を引き出すことが出来ます。

⑩赤ちゃん言葉や幼児言葉
 「お口あ~ん」「よくできまちたね~」など、悪気はなくてもゲスト様を赤ちゃんや幼児扱いしている言葉遣いをしてはいけません。ゲスト様の尊厳を踏みにじっているし、周りが耳にすると不快感を感じます。
 タメ口と一緒で、家族様やケアマネジャー等の関係者の前で出来ないことは、周りに誰もいない状況でもしてはいけないことなのです。

⑪命令口調、攻撃的
 ゲスト様に何かお願いする時に「〇〇しなさい。」「〇〇やれ。」「〇〇して下さい。」などの命令口調は使ってはいけません。「〇〇しましょう。」「〇〇しませんか?」といったような言葉を使うことが適切です。
 命令口調になっていなくても、人のぬくもりを感じられないような冷たい対応、そっけない声だったたり、小さい声だったりすると、冷たいや偉そうだと捉えられてしまうことがあります。顔の表情、声のトーンや抑揚にも気を付けましょう。

⑫あだ名、呼び捨て、続柄、肩書
 親しさの表れであってもゲスト様をあだ名で呼んだり呼び捨てをしたり、「おばあちゃん」「おじいちゃん」「お母さん」「お父さん」や「先生」「社長」などとは呼ばないようにしましょう。ご家族などからすると失礼な人だと思われてもおかしくありません。周りのゲスト様が不快に感じることもあります。
 きちんと相手の名前を呼ぶというのは、相手を尊重し、礼を尽くすという礼節です。しっかりと「〇〇さん」と呼びましょう。

⑬上から目線、高圧的
 「させる。」「やらせる。」「食べさせる。」「飲ませる。」「連れて行く。」「行かせる。」「履かせる。」「着させる。」などの上から目線で圧迫するような言葉は使ってはいけません。
 ゲスト様をしっかりと敬って、「してもらう、いただく。」「食べてもらう、いただく。」「飲んでもらう、いただく。」「お連れする、同行する、一緒に行く。」「行ってもらう、いただく。」「履いてもらう、いただく。」「着てもらう、いただく。」という言葉を使いましょう。

⑭専門用語
 専門用語でゲスト様や家族に話しかけても理解されず、困惑されてしまいます。ゲスト様や家族の中には専門用語の意味が分からなくても、聞き返すことができない、聞き返さない方もいらっしゃいます。どれだけ深い知識を持っていても相手が理解されなければ、その知識には何の意味もありません。理解してもらえること第一に考え、使う言葉や用語を選びましょう。


ホスピタリティケアの効果についての考察

 ホスピタリティケアは何か実験を行って効果を検証したような科学的エビデンスがあるものではありませんが、ご家族様や関係機関の皆さまから支持を受けているという現場感での実証効果があるケアです。

 では何故、ホスピタリティケアが認知症ケアとして効果があるのか?それは以下に挙げる3つの点が理由だと思われます。

①ゲスト様にリスペクトを持って接している。
 第一回「起源」で述べたように、元々介護者目線でのオペレーションや利用者の尊厳を無視したような関わりに違和感を感じてホスピタリティケアは生まれました。ホスピタリティケアでは利用者を「ゲスト様」としてリスペクトを持って接し、ゲスト様のありのままを受け入れるところからケアをスタートさせます。ゲスト様はありのままでいられることに居心地の良さを感じ、穏やかに過ごされるのだと思います。

 またゲスト様にリスペクトを持って接している姿は、ご家族様やケアマネジャー等の関係機関の皆さまにも伝わります。そういったところから評価していただけていると思います。

②ゲスト様の「満足」について追及している。
 ホスピタリティケアでは「どうしたらゲスト様に満足してもらえるか」を考え、実践し続けます。しっかりとゲスト様に目を向け、素早くサインをキャッチして、先回りしてサービスを提供すること。しっかりと説明を行うこと。ニーズの本質を見極めて、ニーズにマッチしたサービスを提供すること。全てがゲスト様に満足していただくためのものです。

 認知症に罹患していてもいなくても、満足感を得ている人が不穏になることはありません。こうした満足感の追求が認知症ケアにも効果を発揮するのです。

③個人プレーではなく、チームプレーをしている。
 
ホスピタリティケアはチームで行うことを前提として組み立てられています。いくら優れたケアギバー(介護者)だったとしても、やはり1人で出来ることには限界があります。しかしチームで取り組めば、メンバー同士で足りないところを補って、不具合が起きているところは指摘し合い修正し合って、そして素晴らしいところはお互いに称え、高め合っていく、ケミストリーを生み出すことが出来ます。

ホスピタリティケアの効果

最後に

 The Harmony Inc.の認知症ケアメソッド『ホスピタリティケア』を全5回に分けてご紹介させていただきました。読んで下さり誠にありがとうございました。
 私たちは『ホスピタリティケア』に大きな自信を持っていますが、もちろんホスピタリティケアが唯一無二の認知症ケアだなんて言うつもりは毛頭ありません。他にも様々なところで様々な人達・団体さん達が優れた認知症ケアをされていると思います。そういったいわば同志の人たちと助け合いながら、あるいは切磋琢磨しながらより良い認知症ケアを追求していければと願っています。また『ホスピタリティケア』が各地で認知症ケアに取り組んでいる同志の人たちにとって何かの参考になればとても嬉しいです。
 そしていつか「介護に関わるすべての人をハッピーに」できたらいいなと思います。
 


<著書『フォロバ100%』Amazonにて販売中✨>


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?